うん??

三好くんのお部屋に、入っていく??



「みゃーこ」

「はい」

「部屋の匂い嗅ぐのやめて」



だってだってだって、尊すぎるじゃないですか〜!!


どんな素晴らしい絵画よりも、三好くんの生活している部屋の空気のほうが価値がある。

だけど、命令なら仕方ない。わたしはさいごにたっぷり深呼吸して、三好くん特有の柔らかくてあまい匂いをすんすん必要以上に吸うのをやめた。


三好くんのお部屋は、いかにも、きちんとした男の子のお部屋ってかんじた。期待通りでハナマルです。


星空柄のカーテンがきちんと端で留められていて、小さな星座の刺繍がついたレースカーテン越しに、さんさんと夏の日差しが差し込んでくる。


広々としたベッドやソファ、勉強机などの木製家具ひとつひとつはすごく高価に見えるけど。

天の川が流れている掛け布団や、夏の大三角形が描かれたクッションのせいで、良い意味でチープになっている。

それと、三好くんは、ものすごく星が好きなのだと知った。かわいいな。



「稀さまも園田も、お茶をどうぞ。暑かったでしょう」



夏空のもとでの爽やか好青年は、お屋敷にいると落ち着いた美少年になるらしい。

三好くんと峰くん、クラスも違うし、ふたりがとくべつな仲だとはあまり知られていない。


なんだか、不思議な関係のふたりだ。いきなりメイドもどきに任命されたわたしとは違って、妙な絆が見える。


峰くんは、高校生にして、どうして執事をやっているのだろう。三好くんは、どうして同じ歳の男の子を雇っているのだろう。



「峰くんは、お茶のまないの?」

「俺はいいの、園田はそこ座って休みなよ」



なんだか、わたしも同じく使用人として来たはずなのに、お客様みたいな扱いを受けている。

それこそ、三好くんの友だちが遊びにきた、みたいなかんじ。


なんとなく腑に落ちなくて戸惑っていると、我が主(あるじ)が、じぶんの座っている左隣をぽんぽんした。


「みゃーこ、ここに座れ」



自由に使える左手をソファに弾ませて、さきほどの峰くんを繰り返すような発言をする。

仰せのままに、彼の隣に腰を下ろした。


ほんとにいいのかな?と不安になったのを目で訴えると、三好くんがちょっとだけ顔を近づけてきて。



「みゃーこに命令できるのは、俺だけだよ」



不機嫌そうなくちびるが、偉そうに仰る。

学校での三好くんはいつも柔和で甘やかだけど、ここさいきんの三好くんは、たいていご機嫌が斜めに思われる。わたしのせいだけど。



「オマエのご主人様は峰じゃなくて俺なの、おわかり?」



言い聞かせるように口遊むので、わたしは流されるように頷いた。



「みゃーこは、三好くんの仰せのままに、です」



猫みたいなじぶんの呼び名を口にすると、案外しっくりきて、わらってしまう。

三好くんもつられるように、ふたりで目を合わせてくすっと笑った。