「えええ?うるさかったですか?あ、わたし、メイドさんなのに三好くんといっしょにお茶飲んでいいんですか?」

「超うるさい、喋るな」

「しゅん」

「そんなの声に出すな」



レベルの低い会話をしながら、価値も値段も高そうな花瓶やら絵画やらが飾られた廊下を進む。


三好くんのお部屋は3階にあるらしく、途中でエレベーターに乗り込んだ。

三好くんがボタンを押してくれたけど、わたしがやるべきだったよね。メイドさんだもん。



「峰くんって、サッカー部じゃないんですか?」

「ちがう、あいつは放課後、俺の執事をやってるから忙しい」

「じゃあなんで、峰くんサッカーしてたんですか?」

「なんか人数足りないからって俺が助っ人に頼まれてたんだけど、訳(・)あって参加できなくなったから、かわりに峰に行かせることにした」



エレベーターから降りて、また縦に並んで歩く。

お金持ちって、これだけ歩くなら、家の中にいても運動になりそう。廊下にはいくつものドアが並んでいて、豪華なホテルみたいだ。



「峰くん、下校が速すぎませんか?」

「オマエがとろとろ歩いてる間、うちの運転手に迎えの車で帰ってきたからね」

「峰くんって、」

「ほんっと、うるさい」



どうやらご主人様を怒らせてしまったらしい。今のは、たしかにうるさかった。

「すみませんでした」と口にして、申し訳ない気持ちで項垂れていると。

それに気を遣ってくれたらしい三好くんが、つぶやくように命令した。



「峰に直接きいてよ」

「承知しました」

「やっぱだめ、みゃーこはぜんぶ、俺にきいて」

「情緒不安定なんですか?」

「黙ればか」



余裕たっぷりで成績も優秀な学校での三好くんとは同一人物とは思えない、語彙力レベル1の罵倒だ。


そんな彼が、一際目立つ扉の前で立ち止まって、重厚そうなそれを押し開けようとした。

それを遮って、わたしが扉の前に歩み出る。



「三好くん、ここはメイドの出番です」



なんたって、彼は怪我人だ。重たい扉を開けることこそ、メイドのお仕事である。


彼はため息を吐いて、その扉に左手をかざした。



すると、あっさり、自動で扉が開かれた。



なるほど。部屋の主の指紋認証システムで、オープンセサミらしい。



「、、、」



なるほど。メイドの仕事は、なかなか見つからないらしい。

ふたりとも無言で、何事もなかったかのように三好くんのお部屋に入っていく。