三好くんの仰せのままに



晴れ空のもと、わたしはヒマワリたちにお水をあげていた。スプリンクラーで虹をかける。


夏の空って、すごく青い。湿気という潤いのせいなのか、色彩の濃度が高い気がする。


ヒマワリたちは、みんな、はいはい仕方なく咲きましたってかんじで、眩しそうにお日様を見上げている。

わかったわかった、たくさんお水あげるから。深みのある黄色が夏空によく映えて、あなたたち、とってもきれいだよ。



スプリンクラーで、ひとり、小さな虹を架けていると。


ばこーん!



「っひ、」



大きな音と共に飛んできた未確認生命体に驚いていると、なるほど、その正体はサッカーボールだった。


まっすぐ、花壇脇の校舎の壁にぶつかったので、なんの被害も受けてないけど、いきなりだったのでびっくりしてしまった。



「ごめん!園田〜!だいじょうぶか〜!!」



ボールを追いかけてきたらしい。

サッカーのユニフォームを着た少年が、わたしを呼んで謝ってきた。しかもけっこう遠くから叫んできたので、声が大きい。



「わ、だ、だいじょうぶ、」

「まじ?ボールぶつかってない?頭打ってない?お花は?へーき?」

「えーっと、うん、へーき」

「よかった〜!」



わたしの答えに、ほっと安心したらしく胸を撫で下ろしてみせるサッカー少年。

にかっと笑うのがとびきりの愛嬌で、なんだか子犬のような彼は、クラスメイトの峰(みね)くんだ。


青い半袖とハーフパンツのユニフォームが、爽やかさを掛け算している。三好くんみたいな王子様的なきらきら感はないけれど、彼は彼でめちゃくちゃ眩しい。

サッカーボールを拾った峰くんは、すぐに部活動へと戻るかと思いきや。

水撒きを再開したわたしに、相変わらずの距離感で話しかけてきた。



「園田、ヒマワリ係なの?」

「係っていうか、園芸部なの」

「へえ!スプリンクラーめっちゃ似合うな〜!」

「峰くんも、サッカーボールめっちゃ似合うよ」



なんていうか、人気者にしかできない距離の詰め方だ。じぶんから話しかけて相手が嫌がるなんて、まったく考えたことがないのだろう。


まじか〜!とにこにこ笑顔が光っていて、ヒマワリたちも思わず見惚れてしまっている。花壇全体が、もう、峰くんの空気だ。


クラスメイトとはいえ、ほぼ初会話なのですが。



「わ!園田、虹つくってるじゃん」

「そう、わたし、虹職人なの」

「しってる?虹の根元って、片方にはお宝があるんだよ」

「しってるよ、もう片方には妖精の国に繋がる扉があるんでしょ」



リズムの良い会話から、同じタイミングでふたりで笑う。どうやら同じ絵本を読んで育ったらしい。