三好くんが入院している大病院からわたしのおうちまでは、2駅ぶんの距離がある。通学定期の圏内だったので、なんかラッキーな気分だ。
帰りの電車、[三好稀]の連絡先をあつく見つめてしまって、なんだか夢みたいな1日だったなあと振り返った。
ちなみに、三好くんのメッセージアプリのアイコンは、黄身がふたごになってる目玉焼きの写真。まったく、どこまで尊ければ気がすむの。
わたしのアイコンは、春に咲かせたチューリップだったので、安心した。三好くんの隠し撮りとか使ってなくてよかったー!
昨日までのわたしなら、この連絡先だけで、ごはんが3杯食べられるくらいの謙虚さだったと思う。
でも、今日のわたしは、贅沢だ。
連絡してみたいなあ、ていうか、三好くんのほうから連絡くれたりないかなあ。そんな期待を込めて、家に着くまでに、1分に1回のペースでスマホをちらちら確認してしまった。
いろいろあって、くたくたになった夜10時。
夜更かしは苦手なので、ちょっと早いけどベッドに潜り込んでしまう。
すると、ぴこん。
スマホが、げんきよく通知を鳴らした。
〝病院食がすごく不味くて、なんかオマエにむかついてきた〟
首が長くなってキリンになっちゃうくらい、待っていたメッセージ。
通知に出てきた名前を見ただけで歓喜してるのに、その内容がまた、こちらのハートを赤く染めてくる。
いっきに目が冴えてしまって、脚をバタバタさせて悶え死んだ。そうして、致死量のときめきを逃がそうとしてみるけど、あんまり効果はみられない。
たくさん読み返して、なかなか返信が作れなかった。長すぎても愛が重たいし、いや、愛は重たいんだけど、重たすぎるといけないし。
可もなく不可もなく。でも、きっと、人気者の三好くんはたくさんのお見舞いメッセージを受け取ってるから、ちょっと特別感も欲しい。
そんなことを考えながら、そわそわしてメッセージを送信した。
〝三好くんがわたしのことを思い出してくれたなら、まずい病院食に万歳です! そういえば、腕使えないのにごはんじょうずに食べられましたか? メイドのわたしが手伝ってあげたかったです。
ちなみにわたしは、ハンバーグを食べました。なんか申し訳ないけど、おいしかったです!〟
お返事、くるだろうか。どこかで怒らせてないかな?それとも、もう寝た?
お返事くれるなら早く欲しいし、くれないならくれないって教えてほしい。こっちは、どきどきして待っちゃうから。
それから、わたしからの返信の間隔と、ちょうどおなじくらいの10分後。
〝うるさい、寝ろ〟
それだけの短文が送られてきて、わたしはじぶんの口もとがだらしなく、ゆるゆるになるのを感じた。
〝おやすみなさいませ、ご主人さま〟と返して、わたしは最高の眠りについた。



