「そのだ、みゃーこ?」
宝石なんかより価値がありそうな三好くんの連絡先を大切に眺めていると、同じようにスマホを見つめる彼が首を傾げた。
わたしの登録名を読み上げているらしいが、なんだか名前がたいへんかわいくなっている。
「あ、園田都(そのだみやこ)で、」
たしかに、みやこって発音しにくいかもしれない。ていうか、三好くんが言いにくいなら、それはもう、言いにくいで断定だ。
いちおう、わたしが名乗っておくと。
「みゃーこ」
まったく改善されぬまま、わたしの名前を舌足らずに呼んでくれた。
と、尊い。
その攻撃力の高さに、ウッと胸を押さえてしまう。く、くるしい。三好くんしか勝たん、です。
「なるほど、こちらをキュンで殺すおつもりなんですね」
「俺のことは、ご主人様と呼んでもよいぞ」
「ご主人さま〜!」
「ばか、つっこめよ」
普段隠している、短気で幼い男子高校生っぽさを見せてきたかと思いきや、なんですか!こんどは、あざとい王子様ですか!
三好くんの引き出しの多さにまいっていると、窓の外の陽がようやく沈みかけてきて。
なんとなく、お見舞いもそろそろ終わりの雰囲気になってきた。
「俺のこと、朝から起こしに来て」
「あー、それはむずかしいかもです」
「なんで」
ふわふわした柔らかそうな髪の毛が、夕陽に透けてあまくなる。白い病室に差し込むオレンジ色が、ちょっと、どきどきさせてきた。
夕立が、こない。
暑い夏の夕暮れは雨が多いけど、きょうは降られずにすみそうだ。夕立の匂いは濃度が高くてにがてだから、わたしは安心する。
でも、雨がないってことは、お花は喉が渇いちゃうな。
「わたし、園芸部なので、朝はまず学校に行ってお花に水をあげなきゃならないんです。それから、三好邸にお邪魔しますね」
朝いちばんに会えない理由を告げると、三好くんは呆れたようにため息を吐いた。
王子様はいつも憂鬱、ため息ばっかりだなあ。そういうのも絵になるけど。そして、わたしのせいだけど。
「みゃーこって、俺に従うことないよね」
なにをおっしゃる?ほんと、わかってないひとだ。
わたしは、制服のスカートの裾をひらりとつまんで、礼儀正しく深々と頭を下げてみせた。
「三好くんの仰せのままに」



