「ところで三好くん、いつ退院できるんですか」
「明後日に検査して、問題なかったら退院する」
「ほう、では退院したらメイドを始めますね?」
筋肉ゼロの腕でガッツポーズもどきをして見せると、「よろしく」と素直な声が返ってきた。
なんですか、そのギャップ〜〜〜!!
軽率に悶えているわたしに気付かず、彼がさらにこちらのテンションを高めてくる。
「うちに来てもらうから、場所教える」
「うち?!場所?!そんなの、わたしに教えちゃって大丈夫ですか?!」
「なに、悪用するつもりなの」
涼しげな二重まぶたを細めて、不審者を見る目つきでこちらに視線を投げてくる。
毎晩、三好邸の方角に向かって拝むのは悪用じゃないですよね?お散歩がてら、うっかり三好邸の前を通っちゃうのも悪用じゃないですよね?
悪用しないので、わたしはぶんぶん首を振って否定した。
「だけど、ほら、あの、三好邸って、あの三好邸ですよね?」
念のため確認すると、彼は、ふう、とかわいいため息をついた。はあ、じゃなくて、ふう、なのが三好くんです。
「お城みたいだとか言われてるけど、まあ、実際は、そうでも、」
「ないんですか?」
「いや、ある」
なんといっても、三好くんは王子である。
たしか、世界でも有名なファッションデザイナーさんが親戚にいて、親がファッションブランドを立ち上げているようなお金持ちで。その御曹司なのが三好くんだ。
お金持ちの事情はよく分からないけど、とにかく、リアル王子様。
その住居である三好邸には、火力強めなオタクのわたしでさえ追い切れないほど、いろんな噂がある。
お手伝いさんがずらっと並んでいるとか、宝石が100個あるとか、美術館みたいに芸術品が並んでいるとか。
噴水からサイダーが出てくるとか、虹色の猫がいるとか、庭には2羽にわとりがいるとか。
そんな三好邸が、わたしのお勤め先となるらしい。
まあ、どんなお宝があっても、三好くんという存在のきらめきには敵いませんけれども。何億円の宝石を盗むなら、プライスレスな三好くんを盗みたい。
「連絡先、教えてよ」
「っ、れんらくさき?!」
「そう、ほら、住所送るから」
慣れたようにさらっと聞き出してくるけれど、こちらにしたら大事件だ。
おどおどしながら(三好くんはクールだけど)スマホを見せ合いっこして、わたしのスマホに[三好稀]が登録される。
スマホのカバーは、透明のプラスチック。
そこに、ロックバンドのステッカーがぺたりと貼られていて、おしゃれだけど年相応な趣味に、また胸が高鳴った。
ふうん、三好くんって、そういう音楽を聴くんだね。わたしもぜったい真似しよう。
三好稀は、その気になればインフルエンサーにだってなれる。



