「で、どう責任取ってくれるわけ」



すぐに退院はできるらしいけど、しばらくの安静を余儀なくされた王子さま。

たいへん不機嫌そうに、病室のベッドからこちらを睨みつけている。



「わ、わたし、夏休みにバイトがんばるので、お金、もうちょっと待ってもらえますか、」

「おかね?オマエより俺のほうがお金もちだから、いらねーよ」

「えええ、三好さまくちわるい」



わたしが勝手に王子様のイメージを押し付けていたのかもしれないけど、まさかここまで態度が悪いとは想像できるはずもなかった。


学校で、みんなの前にいるときはもっと、きらきらしているのにな。




学校を早退して、三好くんは病院に運ばれた。

頭を打たなかったことが不幸中の幸い。抜群の運動神経のおかげか、大きな怪我は腕の骨折のみだったらしい。



一方でわたしは、あのあと保健室でちょこっと治療して、教室に戻った。


消毒と絆創膏と湿布、以上。


普段なるべく目立たないようにして過ごしているわたしだけど、終業式の日に一躍“時の人”になりかけた。


訊ねられたのは以下の通り。


「三好くんとぶつかったってほんと?」が25回。
「三好くんは無事?」が53回。
「ていうか、都ちゃんは怪我だいじょうぶ?」が2回。



三好くんにハグされて階段から転がり落ちたっていう嘘みたいな真実は、あまり知られていないみたい。

学校の王子様の匂いを嗅いだなんて知られたら、大反感を買うことは目に見えていたので、わたしは訂正しなかった。


いや、でもね?そこそこ筋肉もある背の高い男の子と、平凡な女の子が廊下でぶつかって、男の子は病院送り、女の子は保健室ってどういうことよ。


わたしって、そんな、ゴリラ系に見えてるの?
むしろ、小柄なほうかと思っていたけど。





一学期最後のホームルームでは、夏休みを迎えるにあたり、先生が「浮かれすぎるなよ」って口うるさいほど注意してきた。

夏休みは、花火や海など、事故が起きやすい場所が多いらしい。


あのねえ、わるいけど、もうとっくに浮かれてるから。
浮かれて事故も起こしちゃってるし。花火だの海だの言う前に、東階段が危険だって、先生知らないのかな。



あと、そのホームルーム中に気付いたことだけど。


園芸部のわたしは、晴れの日は登校して校庭の花壇に水やりをしなければならない。

だいぶ面倒な気もするけれど、花壇の土いじりは嫌いじゃないので、よしとする。


バスケ部に所属しているランちゃんも、毎日登校するだろうし。



いや、夏休みは明日からだ。
ほんと、浮かれている場合じゃない。