花火大会の日は、最寄り駅より少し手前の駅で待ち合わせることになった。

 最寄り駅で待ち合わせると、人が多すぎてなかなか会えない可能性があるためだ。


「お、浴衣だ。可愛い」

 梓は私のことを見るなりそう褒めてくれて、天にも昇る心地になってしまう。

 気合が入りすぎだと思われるかな、と不安に感じていたけれど、やっぱり着てよかった。


 とは言え、電車に揺られていると少し冷静になった。


 誰が着てもそう言うのだろう、とネガティブな感情に苛まれる。

 あまり期待しないようにしないと。そう自分に言い聞かせた。


 電車を降りて駅に降り立つと、案の定多くの人でごった返している。


 近くにいた集団が脇目も振らず仲間内で騒いでいて、私にぶつかりそうになった瞬間――肩を抱いて引き寄せられた。梓に。


 ふわっとシトラスの制汗剤だと思われる香りが鼻孔をくすぐった。

 今日も部活へ行ってきたのだろうか。


「ありがとう」

「いえ。どういたしまして」


 梓はそう言うと、そのまま肩から手を滑らせ、私の手を握った。


 なんで。どうして。

 そんな疑問の言葉ばかりが頭の中を占めて、手に負えない感情の波が私を襲う。


 きっと、人が多くて離れちゃうといけないから、という理由だろう。


 それ以外の理由なんて、ない。