高校生活で初めての中間試験が終わった頃、ホームルームの時間に担任の先生が箱を持ってきた。

 箱の中には折り畳まれた小さい紙がたくさん入っている。


「そろそろ席替えをしないんですか、という声があったので、くじを作ってきました」


 そういえば入学して1か月半も経つのにずっと同じ席だったな、と気づく。

 席替えということは、凛ちゃんと席が離れてしまうのか。……梓とも。


 最初のうちは最悪だなんて思っていた癖に、今となっては惜しく感じてしまっている。

 なんとなく左隣の席を見ると、梓も同じタイミングでこちらに目を向けたようだった。

「あ……じゃあ、ね」

 片手を持ち上げて、そう声をかけた。

「ん。じゃーな」

 梓はそう言った後、真一文字に口を結んだ。砂を噛むような表情をしている。

 意外とこの席を気に入っているのだろうか。比較的後ろの方だからかな。


 実はこのあたりの位置が1番先生の目につきやすいらしいんだけどなぁ、などと心の中で考えていると、前の席の凛ちゃんが振り返った。


「私はこのままでいいのになー」

 そう言って手と脚を伸ばしている。

「また近いといいよね」


 凛ちゃんと喋っているうちに、くじを引く順番が回ってきた。

「29番か。肉!」

 そう言いながら先生が予め用意していた紙で座席の位置を確認する。

 ちょうど真ん中らへんだった。

「うわ。1番前だよー」

 凛ちゃんが嘆いている。ということは、離れちゃうのか……。


 クラスの全員がくじを引き終わり、席を移動する。


 前方を見渡すと、梓の席が凛ちゃんの真後ろだということに気づいた。

 いいなあ。ぼんやりとそう思ったところで、慌てて頭を振る。

 どっちに対して、という疑問が浮かんできてしまったので、考えるのをやめた。