「そ、そう言えば」

 動揺を誤魔化すように、私は口を開いた。


「放送部に入るの、勧めてくれてありがとう。私には何もないと思っていたけど、いろいろなことに気づけたし、目標もできたよ」


 梓に聞いてほしかったけど、話せていなかったこと。

 それを今、ようやく梓に伝えられる。


 放送部に入ったおかげで、大切なことに気づけた。

 もし入っていなかったら、私はまだ梓に気持ちを伝えられずに、すれ違ったままだったかもしれない。


「俺としては、結衣子が倫太郎と仲良くなって複雑な心境だけど」

 梓は冗談混じりに苦笑した。


「倫太郎君はむしろ、私たちのことを応援してくれていたよ」

「どうだか」


 私は繋いでいる梓の手をぎゅっと握った。


「冗談。わかっているよ」

 梓はそう言うと、私のおでこに口づけた。


 思わず梓の唇が触れたところを、手で押さえてしまう。

 言葉以外でも、考えていることが伝わったのかもしれない。 


「人がいるから。口はまた2人きりのときに」

 梓はそう言っていたずらっぽく笑った。