「たぶんそれ、ゲスな話で結衣子の名前が挙がるのが嫌で、早く話を逸らしたかっただけと思うけど。でも、ごめん」


「ううん。それで私も梓のことを避けちゃったし」

「え」

 梓が立ち止まった。


「もしかしてそれが原因?」

「うん。他に好きな人ができたなんて嘘。ごめんね」


「はあ。ちゃんと話し合っていれば……」

 梓が遠い目をした。


「まあ、でもいいや」

 梓はそう言って繋いだ手を引っ張り上げ、自分の方に寄せた。


「これから、いっぱい伝えていけば」


 私の手の甲に、梓の唇が当てられる。


 心を覆い隠す必要がなくなった梓は、とびきり甘い。