隣の圏外さん



「ってか俺の方こそ、チョコは倫太郎に渡すんだと思ってた」

 えっ、倫太郎君?

「倫太郎君とは、そういうのじゃないよ」


 すぐに否定したけど、梓の顔には余計に不快の色が滲んだ。


「その倫太郎君って呼び方も、すげー気に入らない。……永瀬が下の名前で呼ぶのは俺だけでいいのに」


 梓が拗ねた顔をするので、嬉しくてつい笑ってしまう。


「やきもち?」

 つい出来心で、さっきの梓と同じトーンで尋ねた。


「そうだよ」

 梓は投げやりな様子で返事をする。

 ちょっと可愛い。


「常盤君に戻そうか?」

「いや、いいよ。皆倫太郎って呼んでいるし、俺の心が狭いってわかっているから、そこは我慢する」


 そう言った梓の表情を見ると、なんとなく歯痒い気持ちになった。

 梓を安心させるように、正面から抱きしめる。


「梓のことしか見えてないよ」


 伝わっているかな。


 しばし沈黙が訪れる。