隣の圏外さん



 視線を地面に落としていると、梓に優しく頬を摘ままれる。

「やきもち?」

 顔を上げると、梓は愉悦の表情を浮かべていた。


「ちがっ……!」

 咄嗟に否定しそうになる。


 でも、梓に対しては極力素直でいたい。

 せっかく想いが通じ合ったのだから。


「ちが、違わない。そりゃあ気になるよ」

「ふ」

 梓の手が離れた。

 正直に言ったら、笑われてしまった。


「彼氏の弟だから、仲良くしようってだけだと思う。でも、先輩に言っておく。彼女ができたから、俺に構いすぎないでって」


 ――彼女。

 梓が気を利かせてくれているのに、その言葉の方が気になってしまった。


 そっか。

 私、梓の彼女になれるんだ。



「あとチョコも女の子からいっぱい貰ってた」

 ついでに思い出してしまったので口にしておく。


「来年からは、彼女のしか貰わないって言って全部断るよ」

 梓はそう言って頭を撫でてくれた。


 私ってこんなに面倒臭い人間だったんだな。


 梓はモテるから、どうしても女の子の好意が目についてしまうことが多い。

 それでも、できるだけ気にしないようになりたい。


 梓だって、できる限り私を安心させようと考えてくれているのだから。