次の日の放課後、部活へ行く準備をしている寺元梓に話しかける。

「放送部に入部届、出したよ。ありがとう」


 寺元梓がちらりとこちらを見る。

「お礼を言われるほどのことはしてないけど」

 彼の視線が手元に戻った。


「ううん。寺元梓の言葉がなかったら入ってなかったかもしれないし。だから、ありがとう」

「おう」

 そう返事をした後、彼は頭の後ろで手を組んだ。


「まあ、何もしなければ恥をかくこともないけど、失敗も覚悟のうえでぶつからないと得られないものもあるだろうし」

 黒板の方を見つめたまま寺元梓はそう告げる。


「やらない後悔よりやる後悔ってやつ?」

 そして再びこちらを見た。


「……ま、人のこと言えないんだけど」

 消え入りそうな声だった。

 何かやらずに後悔していることがあるのだろうか。そう思ったけど、私が聞いてもいいことなのかがわからなくて何も言えない。