「りんたろ……じゃなかった、常盤君」

 常盤君の練習が一段落したところで彼に話しかけたが、言い間違えてしまった。


 なぜか常盤君のことを名字で呼んでいる人はほとんど見かけない。

 だから、皆が下の名前で呼んでいるのに釣られてしまった形だ。


 これこそ本当の、語呂がいいということであろう。

 なんだか言いやすそうに感じる。


「なんで言い直したの。倫太郎でいいよ。皆そう呼ぶし」

「じゃあ、お言葉に甘えて、倫太郎君。上手いね。私の初練習のときとは大違い」

「俺は今日初めてやるわけじゃないからね」

 倫太郎君はそう言うと、私が手に持っている本をじっと見つめた。

 さっと図書室で借りてきたものだ。


「それ、何? えーっと……何か落ち込むことがあった?」

 倫太郎君は少し気まずそうな表情だ。


 でかでかと「元気が出る!」と書かれているフレーズ集だったので、私が落ち込んでいると勘違いさせてしまったらしい。