食堂の白井さんとこじらせ御曹司

「はい。任せてください。缶詰居酒屋に匹敵するくらい面白いお店探しますね!」
 ぷっと和臣さんが笑った。
「いや、面白い店じゃなくてもいいんだけどね」
「あ、そうですか、えっと、じゃぁ、あの……でも」
「結梨絵ちゃんが、知らない話を聞くのは楽しいって言うのと同じ。知らないこと知るだけで楽しいから。知らない店を紹介してもらえるだけで楽しい。結梨絵ちゃんと一緒に行けるなら、それだけで、十分」
 どきん。
 きっと、和臣さんの言葉に深い意味はないのだろうけれど。
「じゃぁ、和臣さんの知らないだろう、知る人ぞ知る隠れ家的お店を探しますっ!」
「あははっ。そうだね、うん、別に隠れ家的じゃなくても、スィーツ系の店なら大抵知らないよ。男だけで足が運びにくい店は……ね」
「え?」
 デートとかで、菜々さんと一緒に行ったりしないのでしょうか?
「菜々さんは、甘いもの好きじゃないんですか?」
「え?菜々?なんで、菜々?」
 呼び捨てなんだ。それも、言い慣れた感じです。
「なんでも、ないです。あ、駅です!ありがとうございました!あの、和臣さんは今から戻ればカラオケに合流できるんじゃないかと思うんです!なので、私は、えっと、大丈夫ですから!」
 カバンから慌ててパスケースを取り出して改札を通り抜ける。
 振り返り改札の向こう側の背の高い男の人に手を振り、すぐに立ち去る。
 ちょうど来ていた電車に乗り込み、ドアの横に立つ。
 窓の外は暗くて。
 窓には鏡のように中の様子がうつっています。
 私の、泣きそうな顔が、うつっています。
「あ、はは……」
 顔も知らないのになぁ。

「白井ちゃんおはよう」
「あ、おはようございますチーフ」
「着替える前に、ちょっと学生相談室に行ってくれないかい?今日で時間は大丈夫だそうだ」
 月曜の朝です。いつもの時間に出勤すると、チーフに声をかけられました。
「そういえば、呼び出されていたんでしたっけ?」
 チーフが首を縦に振ります。
「白井ちゃんに用事ってねぇ……まさか、気に入られたのかい?」
 チーフが心配そうな表情を見せました。
「気に入られ……ては、いないと思いますけど……」
「そう、いや、まぁ、気に入られたなら気に入られたで玉の輿だし、めでたいといえばめでたいけどねぇ」
 はい?
「玉の輿?」
 えーっと、どういうことでしょう。