食堂の白井さんとこじらせ御曹司

「あ、なるほど。そうですね。菜々さん、賢いです」
「で、何を選んでたの?」
 菜々さんが私の手に持っていた缶を手に取りました。
「うっわー、熊か!熊は一度食べたことあるけど、臭くて食べられたもんじゃなかったんだよなぁ……」
 菜々さんも熊を食べたことがあるのですか?
 あ……。もしかして……。
 ちらりと和臣さんを振り返って見ます。
 一緒に食べに行ったということでしょうか?
 そういえば、二人は……。付き合っていたっぽいのです。今も実は付き合っているのかもしれません……。
 胸の奥に小さな重りが落ちたような感じがしました。
 もし、そうなら……。
 ほかの女性と一緒にいるところを見るの、菜々さん……いやですよね……。
「ごめん……なさ……い」
「え?気にしない、気にしない!まずかったらまずいでも、盛り上がるじゃない?まっずーって言いながらお酒を飲むのも楽しいよ」
 ……菜々さんが、私の背中をポンポンと叩く。
 意味は取り違えられましたが……。菜々さんはいい人です。
 いい人です。

 結論としては、熊の缶詰は臭み消しの材料は入ってましたが、臭かったです。いい経験になりました。

「じゃぁ、和臣、ちゃんと結梨絵ちゃんを送って行ってやるんだぞ!」
「まぁ、和臣なら間違いはないと思うが」
 缶詰居酒屋を出ると、他の4人は二次会のカラオケに行くそうです。
 私は、もともと歌が得意ではないのにプラスして、眼鏡がないためカラオケの歌詞が見えないのでカラオケはお断りしました。
「あの、私一人でも大丈夫ですから、和臣さんも行ってください」
 この間は菜々さんを送って行っていました。
 私を送るために菜々さんを送れないなんて……。
「このあたり、駅までの道が複雑だけど覚えてる?」
「え、あ……」
 周りを見渡すけれど、どっちから来たのかすら覚えていません。
「じゃ、バイバーイ、またね!」
「気を付けて」
 どうしようと思っている間に、4人は足早に移動してしまいました。
「駅は、こっちだよ。行こうか」
 和臣さんが背を向けて歩き出します。
「あの、まって……」
 せっかく道案内をしてくれるというのに迷子になっては駄目です。
 飲み屋の多いこのあたりは、ちょうどいい時間帯なのかずいぶん人通りもあります。