食堂の白井さんとこじらせ御曹司

「ごめんなさい、少し、よろけてしまって……」
 本当に今はよろけそうです。
 足が小さく震えます。
「ぼ、僕こそ、ごめん。支えてあげないといけないのに、逃げるような感じになっちゃって……。いくら顔が見られたくないからって……自分勝手だった」
 顔が見られたくない……。
 どうしてそこまで見られたくないのでしょう。
 誰かにバカにされて振られた経験でもあるのでしょうか。
「いいえ、あの、私こそ……」
 自分が見たくなったからって、こっそり顔を見ようとしてしまって……ごめんなさい。
 嫌われたくないです。
 顔を見ようとしたなんて知られたら……嫌われるかも……しれません。
 足の震えはひどくなり、思わずしゃがみこむ。
 落ち着こう。落ち着くのです。
「あ、ほら、和臣さん、このあたりは肉コーナーです。肉、食べましょう!肉!」
 なんとか普通に声が出ました。
 いくつか缶を手に取り和臣さんに差し出す。
「いくら肉が好きだって言ったからって、合わせることはないよ?結梨絵ちゃんの好きなもの選べばいいよ」
「私も、肉は好きですよ?男性の普通ほどじゃありませんが」
 和臣さんが少しだけほっとした声音で答える。
「そう、女性として普通に好きなんだね」
「ふふ。それにほら、これは肉は肉でも熊です。ちょっと食べてみたいです」
「熊か……昔一度だけ食べたことがあるけれど、肉がぱさぱさしていて獣臭かったよ。あ、いや、ごめん。食べるのを楽しみにしてる人に言う言葉じゃなかった」
「獣臭いんですか?」
 缶詰の側面を見る。
「えっと、生姜にお酒と、臭みを取る材料も使われているみたいですけれど」
「うーん、じゃぁ、大丈夫なのかな?ほかにも熊は置いてあるかな」
 と、二人で熊の缶詰をいろいろ手に取って原材料や説明書きを読み比べていると、菜々さんの声が聞こえてきました。
「ぷっ。二人ともさっそく缶詰の説明書き読んでるし」
「あ、菜々さん」
「ったく、帰ってこないから、何してるのかと思ったら……。っていうか、何かしてたわけじゃないのねぇ」
 菜々さんが何か含みのある言葉を和臣さんに向けた。
「す、するわけ、ないだろ」
 焦った声を出す和臣さんに、菜々さんがふっと鼻で笑って、私の肩を押した。
「さ、早く戻ろう。せっかくだからいろいろ食べてみて、美味しかったら缶を撮影して後日読めばいいっしょ」