食堂の白井さんとこじらせ御曹司

 黒崎さんがもちろんとうなづいた。
 リュックから化粧ポーチを取り出し、コンタクトケースを探す。
「トンボ玉?」
「え?」
 思わずコンタクトケースを探す手が止まります。
「詳しいですね、そうです。トンボ玉です」
 化粧ポーチにつけてあるストラップは、手作りのトンボ玉です。
 丸いガラス玉を見て、ビー玉だという人はいても、トンボ玉だという人はそれほど多くないのでびっくりしました。
「詳しくはないんだが、妹が同じようなものを持っていて」
「へー、妹さんはトンボ玉好きなんですか?」
「い、いや、気に入っているようだけど、前から好きだったわけじゃないかな。最近もらったらしくて、うらやましいだろうってさんざん自慢されたから覚えていたんだけれど……」
 うらやましいだろうって、自慢された?
「黒崎さんも欲しいんですか?トンボ玉」
 そういえば、トンボ玉教室で勾玉型のトンボ玉も作れると聞いたことがあります。
 宇宙を閉じ込めたような模様の入った勾玉の形のトンボ玉なら男性がストラップとして持ち歩いても変ではありませんよね?
 和臣さんに、作ったら受け取ってくれるでしょうか。
 約束……、今度スィーツをごちそうしますという約束は守れないかもしれません。だから……。
 おごっていただいたお礼として……。受け取ってくれるでしょうか。
「え?あ……ま、まぁ」
 いくつか作って、黒崎さんにもあげようかな?
 ……男の人がもらって喜ぶのか、分かりますよね?実験台にするみたいで申し訳ないでしょうか。
 手を洗ってから眼鏡をはずそうとして鏡を見ると、
 鏡を通して、黒崎さんが私の顔を見ていました。
「あの、」
 目をかっぴらいてコンタクトを入れる姿を見られるのはどうにも……恥ずかしいのですが……。
「……な、なに?」
「見られていると、はめにくいので……。それから、さっき鏡が欲しいといったのは、コンタクトをはめるための鏡じゃなくて、化粧をするときに使える鏡のことなのですが」
「ご、ごめん。か、鏡か!わかった。探して持っていく」
「じゃあ、コンタクトをはめたら、私は先に行ってますね。事務所棟の1階でいいんですよね?村上さんと横山さんですね?」
 テーブルの上に乗った袋を二つ手にして事務所棟へと足を運びます。

「初めまして」