杖を抱え、大きな木の根方に背中を預けて目を閉じた。
 不安があろうが焦っていようが、眠れるときに眠っておかなければいけない。眠る必要があるときに眠るのも戦士の技術だ。
 できれば、夢も見ないでぐっすり眠るのが望ましい。
 が、シルフィスは夢を見た。黒い瞳と黒い髪の少女の夢。
 最後に彼女を見たのは、自分が十五で彼女が十六歳のときだった。
 ……四年前のことだ。
 大丈夫だ、おまえには私がいる───微笑む少女の夢は、不意に現れた赤い髪の少年が、このヘタレが、と言うところで唐突に終わった。
 すぐそばで、布の擦れる音がした。その一瞬で、シルフィスの神経が覚醒して。
 どんな小さな異変も感知して目覚めることも、戦士の技術なのだ。
 何かが静かに動く気配がする。
 ──ナーザか? いや、この気配は……。
 しばらく待って、薄く目を開いた。栗色の髪が、月の差す木立の中をふわふわと飛んでいくのが見えた。
 隣を見ると、ナーザが地面に出た根の間で外套にくるまって目を閉じている。規則正しい寝息をたてて。
 シルフィスはリシュナに目を戻した。音もなく立ってリシュナを追った。
 小さく開けた場所に、リシュナは浮いていた。あたりを見回し、腰かけるのにちょうどいいくらいの岩に静かに降りる。
 そのまま月を見上げている。
 ──彼女、眠る必要もないんだろうか。食べない、とは言っていたけど。