祈りの空に 〜風の貴公子と黒白の魔法書

「その髪の毛はどこへ行ったの」
 不自然なくらい冷静な口調で、リシュナが尋ねた。空気は、凍りついている。
「わからない。俺、その後は、戦って死んだから」
「ホルドトは……ホルドトも倒されたのよね?」
 あくまで抑えた低い声でリシュナが尋ねる。
「倒された、良き魔法使いに」
 シルフィスはきっぱりと言い、けれど、と口調を弱める。
「けれど、最期は、はっきりしていない。良き魔法使いに追い詰められて崖に落ちたとか、邪法に手を染めた報いで岩になったとか……」
 雷帝のように死体が確認されてはいない。まして、雷帝の遺髪の存在など初耳だ。
「リシュナは何か知らないの?」
 ルチェが宙に浮く彼女を見上げる。
「知らない。あたし、城の奥深くに閉じ込められていたもの。財宝狙いの盗賊が扉を開けるまで」
 ずる、とナーザの背中が壁を滑った。そのまま床に座り込む。