祈りの空に 〜風の貴公子と黒白の魔法書

「王家に残っている記録では雷帝の遺骸は……」
 言いかけて、シルフィスも拳を口に当てた。本人が目の前にいるし、確かに無邪気な笑顔の似合う少女にあまりえぐい話は聞かせたくない。
 ……遺骸は三日三晩燃やされ、砕かれて地中深く埋められたとか。
「……例えば、灰からじゃ、無理だろ?」
 表現を和らげて、ナーザに聞いてみる。ナーザは眉間に皺を寄せた。
「無理だと思う。そんなことは、できなかった。体の一部が残っていれば、そこから生きていたときの姿を復元してみせたことは……あったけど……」
 言葉が途切れた。シルフィスは、ほっ、として、
「では、魔法で雷帝が甦るのは、現実には不可能なんだね」
 と言おうとした。たとえレイシアで奇怪な出来事が起こっているにしても。
 だが、ナーザが顔色を変えて声を押し出す方が早かった。
「俺、ホルドトに、髪の毛を、預けた」
 体温がすっと下がったような気がした。
 ナーザは壁に背中をぶつけるようにして寄りかかり、頭を抱える。
「そうだ、俺……領民が城に押し寄せたときに、こりゃあ死ぬかな、って思って……。せいぜいたくさんの人間を殺してから死んでやるとか、そんなことをホルドトと話して……ホルドトが、おまえが死んだあと、おまえの体を甦らせてもうひと暴れさせてやろうか、って言ったから、俺、面白がって、髪の毛を切って、渡したんだ。それで雷帝の体を復活させて、操れるって……」