「雷帝に仕えた魔法使いが残した、と言われているけど……」
 言いかけて、シルフィスは口を噤む。伝説が本当なのかつい確かめたくなってしまったのだが、これは無神経な質問だった。
 けれど、
「仕えた、ってより、組んだ、って感じかな」
 答える少年の横顔は、とても淡々としていた。
「記録に名前が残ってるかどうか知らないけど、ホルドト、って魔法使い。リシュナを飛頭にしたのも、そいつ。命令したのは、俺だけど」
「命令したのは、雷帝でしょ」
 怒ったように、リシュナが口をはさむ。ナーザは浅く笑った。だから、俺じゃん──とは言わなかったけれど。
「勇者に味方した良き魔法使いがホルドトと戦って勝って、『黒白の書』も封印されたんだよね? 俺は雷帝だったとき魔法の研究には興味がなかったから、中はパラパラっとしか見たことないんだけど、人を別の生き物の姿にしたり、死体を甦らせて兵士にしたりとか、そんな魔法が書いてあった」
 話だけで胸の悪くなる魔法だったが。
 シルフィスの胸を重くしたのは、本当にこの少年は前世の記憶を取り戻した雷帝の転生者なのだ、という事実のためかもしれない。
 領民を虐げ苦しめた暴君のイメージとはかけ離れた少年なのに。