「よろしいんでしょうか、伺っても」
「いいよ。その代わり、頼みがあるの」
「頼み?」
「お兄さん、吟遊詩人なんだから、あちこち旅するでしょ? 魔法に興味もあるようだし、どこかで飛頭の呪いを解く方法を聞いたら、ナーザに知らせてやってくれないかしら?」
 イストは真面目な表情でシルフィスを見上げていた。
 その水色の瞳を見つめ返し、なるほど、とシルフィスは心の中で小さく息をつく。無責任におしゃべりしたいわけではないのだ。
 シルフィスは指差された椅子に、腰を下ろした。
「聞かせてください」
 カウンターに肘をつき、イストは少しの間、宙に視線をさまよわせた。
「毎年、この時期になると町にサーカスがやってくるの」
「虎が逃げた?」
「そう。ナーザが十二の歳の興業で、リシュナが舞台に出たの。『伝説の暴君雷帝に飛頭にされた、悲劇の美女』って謳い文句で」
 雷帝に──言葉が重い鉛のように胸に落ち、シルフィスは思わずナーザと飛頭が出て行ったドアをふり返っていた。
 ……イストの言葉が真実なら──出て行ったのは、雷帝に飛頭にされた女と、雷帝の生まれ変わりの少年?