看板と同じ色の黒いドアを押す。
 狭い廊下があって、もうひとつドア。
 それを開くと、思いの外広くて明るい部屋に出た。正面の大きな窓から太陽の光が入って、中央のテーブルと椅子を照らしている。
 が、逆に、奥まったカウンターは暗さが増して見えた。
「──らっしゃい」
 そのカウンターから声がした。
 金髪の少年がひとり、コップを磨いている。
 あ、電気クラゲだ──と、シルフィスは思った。いや、科学的には、発光クラゲと言うべきか。
 薄暗がりで、淡く揺らめいている金色。綺麗な髪だ。
 磨き終えたコップを置き、少年はカウンターに手をついてシルフィスに向き直る。
「お客さん? どっち? 食事? 仕事?」
 扉を開けた最初のフロアーを食堂や居酒屋にしているギルドは多い。王室からも依頼のくる『青鷺の宿』クラスになればそこはメンバー専用だったりもするが、地方では〝兼業〟が普通のようだ。さっき話を聞いた町の男も言っていたが、そうそう大きな事件もなくて、ギルド商売だけでは喰っていけないのだろう。
 でも、平穏無事は良いことだ。
「お茶だけでもいいかな」
「全然。焼き菓子はつける?」
「うん、そうだね」
 他に客はいない。昼食時はもう過ぎたし、暗くなってからの方が稼ぎ時の店かもしれない。
 シルフィスはカウンターに近いテーブルに席を取る。