時が制止したような沈黙のあと、死体兵の群れが、じわり、と前に進んだ。
 エディア、と魔法使いは呟く。何かを振り払うように、きっと空に指を向けた。
「──『黒白の書』、だ? そんな古臭い魔法に俺が負けるかよっ」
 あんなじじいに俺が負けるかよ──そんなセリフが、ふわっ、とナーザの記憶の底から浮かび上がった。
 雷帝だった自分が、勇者に味方する良き魔法使いに勝てるのか、と尋ねたときの、ホルドトの答えだ。───あんなじじいに俺が負けるかよ。
 ナーザは下を向いた。落ちた前髪の下で、唇が両端を上げていた。くくっ、と笑いが漏れた。
「……変わんねえなあ、おまえ」
 そういうところは。
 ナーザは立てた片膝を抱えて窪地にひたと目を据えた。少し遠いけど……。
 瞳が暗い金色の光を帯びる。
 転生した雷帝が、寄せ集めの死体でつくられたエセの雷帝なんかに負けるかよ───だよな。
 静かに神経を研ぎ澄ます。
 上空で白い光が幾本も細く走るが。
 数は撃てない。
 でかいの、来い。
 ……。