祈りの空に 〜風の貴公子と黒白の魔法書

 シルフィスは杖を握り直した。まずいなあ、ギルド戦士相手に十対二……いや、一、か。ナーザは目隠ししていては戦えない……。
「リシュナ、離して」
 ナーザが言った。リシュナが髪を解くと、目を閉じたまま袋を探り、布を取りだした。
 ダルグが弁当を包んでくれた布だ。それを目に当て、頭の後ろで縛る。
「何人?」
「十はいるね……それでやれるのかい」
 低く尋ねたシルフィスに、ナーザは頷く。
「落雷を呼ぶ?」
 続けて尋ねると、ナーザの唇の端がわずかに上がった。
「この距離で?」
 自分の間抜けさにシルフィスも笑った。
 この距離で雷が落ちたら、こちらも無事では済まない。
「俺から離れていて、シルフィス。槍の間合いより遠く。リシュナは俺のすぐそばにいて」
「冗談でしょ。あたしにちょうどいい相手がいるのに」
 というのが、リシュナの答えだった。
 シルフィスもナーザも思わずリシュナをふり返る。ナーザは目隠ししていたけれども。
 リシュナは真っ直ぐ目玉を見ていた。
「あれ、人を操る以外の能力はないのよ」