「失礼します」

私は職員室に入る
今日は会議をしていない

先生たちは各自の仕事に専念していた
私は、西九条の背後で足を止めると
筆箱をそっと机に置いた

「小西さんか
筆箱は見つかったの?」

書類に何かを書き込んでいた西九条が
顔をあげると私に振りかえった

教師としての優しい顔が
私の目に映る

私は首を横に振った

「今日、帰りに新しいのを買って帰ります」

「そうか
俺も探してみるよ」

「ありがとうございます」

私がぺこりと頭をさげる

顔をあげると
青山と目が合った

青山は大きな胸を揺らして
視線をそらした

「万引きするなよ」

西九条が冗談交じりに
片目をつぶって口を開く

「しませんよ」

するわけないじゃん!
…てか、先生たちの前で言うなよ
頭にくるなぁ

「ストレスの多い社会だから
お金を持っていても
つい、万引きしちゃう子が多いんですって」

青山先生が横から口を挟んできた

まるで私が万引きをするかのように言う
私は頬を膨らませると、不機嫌な顔をした

西九条が笑い声をあげると
右手に持っていたボールペンをデスクの上に置いた

「実際に万引きはしませんよ
小西はそういう子じゃないですから」

『小西』?
呼び捨てかよ

「そうだといいんですけれど
罪を犯しそうにない子が罪を犯すケースは
多いですからね~」

もしかして
私に喧嘩を売ってる?

買おうか?
でも職員室で口喧嘩をするほど
私だって馬鹿じゃない

怒りで何を言い出すか
わからない
西九条に迷惑はかけられない