「バイト、遅刻するぞ。」
あきは否定も肯定もせず、
それだけ言って歩き始めた。
「ほら、置いてくぞー。」
「ま、まって、きゃ!!!」
歩き始めようとしたら転びかけた。
やばい、恥ずかしい!
そう思った瞬間、
私はあきに支えられた。
「ご、ごめん!」
「どんくさいやつ。」
支えながら、私を見てクスクス笑う。
「どうせ!どうせ私はドンくさいし、
家事は苦手だし、
生活はルーズだし、
すっぴんブスだし!」
「うん、知ってるって!(笑)」
「だけど、
早くあきを私たちから解放しなきゃって思ってる。」
「ばーか。好きでやってんだからいーんだよ。
それにお前が家事とかしたら仕事が増える。」
あきの優しい声。
そう言えば支えられたままだった。
立ち直り、あきの袖をつかむ。
「解放する気、ないじゃん。」
袖を掴んでいた手を握られた。そして
「ま、俺も海智のこと離さないけどね。」
と言った。
小学生以来、あきと手を繋いだことなんてあったっけ?
細くて長くて、少し冷たい手…。
あきはいつこんなに大きくなったんだっけ?
あぁ、そっか…。
あの頃、私があきを避けたんだ。
「こわい?誰かと手を繋ぐの。」
「ううん。…あきだから大丈夫。」
あきの手を握り返してみた。
なんかいつもより胸がキューってして…。
こんな胸の痛み、私は知らない。
バイト先までもう少しだけど、
そのまま手を繋いで行った。
