Chapter5 堕落の空間


ダンスパーティなんて、出る気はなかった。買い物に付き合うだけだと思っていたら、代わりに変なものを買ったような。
結局その日は家に帰った。体を動かそうという気力も起きなかった。ただ、体が火照ってた。
「おかえり…ん?どうした?」
「へ?」
「顔赤いぞ、熱でもあるか?」
「な、ないよ。ぜんぜん大丈夫」
「……うーん?」
ここまで送ってくれたロンが、玄関でお父さんと話してるような声が聞こえるけど、それどころじゃなかった。ロンの顔すら見れなかった。本当に、どうしたんだろう。
「だって…あんな、顔近くにっ…」
今まで仲のいい男友達だと思ってたのに。…違うって言うの?
「こわい……」



翌朝、起きた時からロンが頭に住みついていた。今までなら素直に出て行ってくれたんだけど。
ぼーっとしながら学校に向かっていた。教室に着くのは時間の問題だった。
「優奈ちゃん、おはよ」
「……」
「優奈ちゃん?」
「…はっ、お、おあおおおはよう」
「慌てすぎ。昨日、急に飛び出してっちゃったんだもん。びっくりしたよ?」
そういえば、名波ちゃんを置いてけぼりにしたままだった。全く配慮していなかった。
「ご、ごめん」
「私に免じて許そうっ」
「はは、何それ」
「この前のドラマのセリフ」
…名波ちゃんと話してると、落ち着けそう。
「あれ、南ちゃんは?」
「ああ…なんか風邪ひいたって。明日か明後日には元気になるでしょ」
「だといいけど」
いつもふたりで話しているイメージだったから、名波ちゃんだけだと物足りないような。私の偏見なんだけどね。


…今日は、現状を知ろうと思っている。咲也はみんなとの交流が深いから、異変に気づく人は多いと思う。その流れで、翔との繋がりがある人にも出会えたら、と思う。
「ねえ、名波ちゃん。ひとついい?」
「どしたの?」
「門堂のさ、咲也って男の子知ってる?」
「ああ、あのイケメン神主くんか。最近急に見なくなったね」
「それって、いつ頃から?」
「見なくなったのは…去年の春あたり。ちょうど、今くらいの季節だったかなあ」
「へえ…ありがとう」
「何かあったの?」
さすがに話すわけにはいかないし、話すと長くなるかな。
「なんでもないよ」
「そう?なんかあったら言いなよ?私がなんでもいつでもどこまでも助けてあげる!」
「ドラマのセリフ?」
「あったり!」


胸の奥に密かな違和感を抱え始めたのは、ちょうどそのあたりだった。だから、一年前に何かあったことは間違いない。
だけど、肝心な部分が分からない。
「夢の世界に行ったのは、そのあたり…?」
たぶん、これのような。確証はない。こんな時って、どうしたらいいんだろう…?