今日向かうのは、芦田にある喫茶店。わんこも連れていける場所で、店内にはたくさん関連の商品も置いてあるらしい。私の目当てはそれでもある。
「あっ!」
名波ちゃんが、おもちゃを見つけた子供のように走っていく。その先にあるのは花屋。…懐かしいなあ。
「優奈ちゃん、ここのお花綺麗だよ!」
「本当だね」
こういう寄り道も悪くない。
そういえば、前にここに来た時はおつかいを頼まれたんだよね。隣町までお花を受け取りに行ったんだっけ。
「あれも一年前か…」
「えっ?」
「前に来たとき、ユーカリをもらったの。すっごい綺麗な人からもらったんだ」
「…ユーカリ?」
知らないのかなあ?安価で買える、ポピュラーな花だと思うけど。
「うん。たしか、隣町の花屋さんの店員さんと付き合ってるんだよね」
「…そ、そうなんだ」
「…なに?」
「いや…ここにユーカリなんて無い、けど。どこかと間違えてる?」
「へ?」
ユーカリが無い?
だって、あの人からもらった…あの、美人な人から…
「なにかお探しですか?」
店の奥から出てきたのは、高齢の女性だった。私が知ってる人ではなかった。
「…いえ」
「優奈ちゃん……」


膝の上には、可愛らしい子犬が乗って私を見ている。つぶらな瞳、短い足、垂れた耳…ミニチュアダックスフンドの子ども。いつもの調子なら、どれだけ可愛がれたかな。
「優奈ちゃん…」
「……」
少し前から続くこの変な感じ。知らないのに懐かしい気持ち。見たことがないのに、会いたい想い。でも、確信が持てない。
我ながら、面倒な性格だよ。
「ねえ、名波ちゃん」
「ん?」
「絶対忘れたくない人のことを忘れたら、どうする?」
「え…?」
「バカな頭とかしこい体。ずっと、体だけがうずいてるの」
「……」
何を言ってるのか分からないのは、私も同じ。でも、もう何を覚えていて、何を考えて、何を忘れたのかさえ分からない。
「会えるなら会いに行く。かな」
「…」
「何があったのかは知らないけど、身体が覚えてるって、本当に好きだったってことでしょ?」
「…どうかな」
「また会えるって信じて、会いにいく。夢の世界に居たって、会いにいく」


—思い出しましたか?


…夢?
私は、今まで何をしていた?夢の世界で、いろんな経験をした。不思議な体験をした。怖い思いもした。
三人のことをずっと忘れていた。この一年の間、ずっと忘れていた。
「そうだ…夢の世界だ」
「へっ?」
「私は、ずっとずっと…友達を苦しませた。あの子の気持ちに気付けなかった」
「あの…何が何だか」
「ごめん。私、行くね。続きはまたこんど行こ!」
「え、ええ?」
早く、早く会いにいかなきゃ。
誰かとかはわからない。でも、思い浮かぶ三人の顔は、紛れもなく私の友だちだ。