「ご飯を食べさせてくれるなら、知らない奴と寝るのか?」



「それが何?


そんなの私の勝手で…」



「寝るな…」



「は?」



「もう、他の男と寝るな。」



「何であんたにそんなこと言われないといけないわけ?


私がどこで何をしようと、あんたに関係ないでしょう?」



「本当…想像以上だな…」



「は?さっきから何言って…」




真剣な眼差しで、私の瞳を捉えて離そうとはしない湊。



今すぐにでも、視線を逸らして離れたいって頭では思ってるのに。



心の中では否定しても、身体が上手く反応できない。



いつだってそうだった。




抱きしめられたら、離れられなくなる。




この人の温もりは特に…。



母親に捨てられてから、自分の生きている意味や価値を見いだすことなんてなかった。



他の男に、抱きしめられることで安心している自分がどこかにいた。



1人でいることが不安で、そうしていないと自分で自分が価値のない人間に思えてくるようで苦しかった。



まあ、抱きしめられたところで心が満たされることなんて1度もなかったけど。




むしろ、日に日に虚しさが募る一方で、結局母親の温もりに勝るものなんてなかった。




「もう、いい加減にしてよ!」




もう、何なのよ。



一体、何が分かるっていうの?



声を張ることでさえも辛いのに。



「星南、今は俺の事を信じられなくてもいい。


俺の事、知りたくないなら無理に知ろうとしなくたっていい。


それでも俺は、星南を信じる。


お前のことを信じるよ。」




1ミリも外さない真剣な瞳に、身体が金縛りにあったかのように固まる。




捉えられた視線から逃げられない。




それより、見つめられる視線に心が乱される。



「だから星南、安心して俺のところに帰ってこい。



家に帰るのが嫌なら、いつでもここに来い。



ここのスペアキーをお前にも渡しておくから。


あと、俺の連絡先。



いつでもどこでも連絡してくれていいから。」




何で、そこまでするわけ?



赤の他人のくせに。



そもそも信じるって何?



私の何を信じるわけ?



そう言って、何人もの女を落としてきたんでしょう?



私もその内の1人なわけで…



体を重ねた女の中の1人でしょう?



それ以上でもそれ以下でもないわけで。



意味が分からない。




「あー、やっぱり星南、俺の連絡先ここで登録して。」




「は?何で?」



「いいから。そうでもしないと、捨てられそうだしなそれ。」



分かってるなら、最初から渡さなくても良くない?




「なんで私があんたの言うこと…」



「はい、貸して。」



手に持っていた携帯を、あっという間に取られてしまい湊は慣れた手つきで自分の連絡先を私の所に登録をした。




「これで、離れていても俺は星南と繋がってるっていうわけだ。」



「むかつく…」



きっと、私から連絡することはないだろう。



私は喜ぶ湊をよそに、荷物を持ちホテルを後にした。