「もしかして、俺に興味が出てきた?」



何言ってるの?



自意識過剰にも程がある。



「別に。どうでも。」



そう言って、私はその男から背を向けた。



「ほら、そろそろ着くよ。


俺から離れるなよ。迷子になられても困るから。」




エレベーターの扉が開き、カードキーでその男が部屋のドアを開けると、やけに広がった部屋があった。



こんな所、来たことない。




「凄い。」



「ふふ。気に入ってくれた?」



「そうだね。」



面倒くさい。



適当な返事を返すと、嬉しそうににこにこする男性。



「っていうかさ、俺の名前は聞かないわけ?」



「は?」



「いや、これから一緒にご飯食べるんだから名前くらい聞いてもいいだろう?減るもんじゃないし。」



「別に、名前なんてどうでもいいじゃん。」



「冷たいなー。


俺の名前は、白木湊(しらき みなと)。


好きなように呼んでくれていいから。」



「そう。」



名前なんてどうでもいい。



この男の人と会うことは、今夜が最後なわけだし。



「なあ、名前教えてよ。


名前も知らずに一緒にご飯食べるなんて寂しいだろう?」




「……明日海。」



「ふーん。明日海ちゃんね。」



やりにくい。



どうしても、この男にペースが乱されてしまう。



「明日海ちゃんは、何が好きなの?」



そう言って、白木湊はメニューを渡してきた。



「…何でもいいよ。同じので。」



「えっ?」



「適当に選んで。同じのでいいから。」



「そう?分かった。」



部屋に設置されている電話で、料理を注文してからあまり時間がかからずに料理が運ばれてきた。



「お腹いっぱい食べていいから。



足りないようなら、追加で注文するし。」




やたらたくさん頼むと思ったけど、こんなにたくさん食べられるわけない。



お金持ちの価値観はよく分からない。



「美味しい?」



「普通じゃない?」



「素直じゃないな。」



そう言いながら、何度も私の表情を見ながら楽しそうに食事を続ける白木湊。



その視線に気付かないふりをしながら、私も必要最低限の返事を適当にしながら食事を食べ終えた。