「いや、だから。
退院したらそのまま俺と暮らそうか。」
「な、何…言ってるの?」
「俺が、あのホテルで星南を待っていてもきっと来てくれないだろうしな。
それに、そこら辺の輩に星南が連れて行かれるのも嫌だしな。」
「そんなの、関係…」
「今の生活が、本当の星南の幸せなのか?」
「えっ?」
「全く知らない奴と、一緒にご飯を食べて幸せなのか?」
「……。」
答えられなかった。
本当は、見ず知らずの人とご飯を食べて眠ることが怖かった。
乱暴な人もいれば、変なプレイを好む人だっていた。
優しくしてくれる人なんて極わずかだった。
それでも、湊以上に私の心をゆらがしてくる人なんていなかった。
外見や、メッセージの文面だけでは、出会うまでその人の中身までは知ることができない。
そういう非公式的なサイトで出会ったから、裏のある人ばかりだった。
攻撃的な人もいて、身体も傷つけられたこともある。
飲みたくもないお酒を飲まされたことだってある。
それでも、あの家に帰るくらいならご飯と寝るところがあれば何処でも良かった。
一晩身体を重ねたらそれで終わり。
それ以上の関係はなかった。
必要のない関係だから。
誰でもよかったんだ。
「違うだろ?
家に帰りたくないっていう理由が1番なら、俺と一緒に暮らそう。
それに、俺が目を離すとすぐ無茶ばっかりするからな。
だから、もう安心して俺について来い。」
1ミリも外さない視線に、胸が熱くなる。
私ももう、限界だよ…
1人でも生きていけると信じていたのに…
その優しさに寄りかかりたくなる。
信じて着いて行きたくなる。
でも、いいのかな?
私の身体は、汚れているかもしれないというのに。
「いいの?」
「心配なことがあるなら話して。」
「私、色んな奴と身体を重ねてきた。
この身体は汚れてるんだよ?
それに、まだ簡単に湊のこと信用出来ない。
冷たく当たるかもしれない。
それでもいいの?」
「星南…。
ほら、俯くな。
俯いたら何も見えなくなる。
自分の気持ちも、分からなくなる。
それに、星南が誰かに抱かれてきたとしても星南のこと1度もそんな風に思ったことは無い。
星南。きっと自分が思うよりも星南の心は清らかで綺麗なんだ。
人を信用出来なくなっても、星南はしっかりした考えも心も持った女性だと思ってるよ。
俺は、正直な星南の気持ちを知りたい。」
正直な気持ち…?
楽になりたいという以外、何も無かった。
「楽になりたい…。」
もう、余計なことを考えたくないよ。
「星南…。」
「もう、何も考えたくない…。」
「星南。
俺は、星南がそばにいてくれればそれだけでいい。
今は、何も考えなくていいから。
でも、星南。
これだけは忘れないでくれ。
俺は、星南を裏切らない。
簡単に信じることは出来ないと思うけど、俺はいつでも行動で示すよ。」
「湊…。」
この人の前だと、どうしても心が弱くなってしまう。
だけど、きっとそれは心を許しているっていうことなんだと思う。
いくら私が、誰も入り込めないように心にバリアを貼っていても、この人は何度でもそのバリアを破く形ではなく、その隙間から入り込み心を温めるように言葉をかけてくれる。
私ももう分かっている。
この人はきっと頼っていい人なんだ。
「よろしくお願いします…。」
もう限界はそこまで来ていたのかもしれない。
「こちらこそ。」
湊は、私の唇に優しくキスを落とした。
その優しい口付けに、張り詰められていた心がゆっくりと溶かされていく感覚になる。

