「星南、そろそろ起きろ…。」



誰かの呼ぶ声が聞こえる…。



重い瞼を開け、私は身体を半分起こした。



「あっ…。また来たの?」



私の顔を覗き込む見慣れた湊に、私は思わず呆れそう言い放っていた。



全く、この人は暇なわけ?



なんで毎回毎回、私の元に来るんだろう。



「またってなんだよ…。


具合はどうだ?


酸素は取れたみたいだけど、呼吸は楽になったか?」



「うん。」



寝ている間に、誰かが外してくれたのだろうか。



それに、呼吸もだいぶ楽になっている。



「そうか。よかった。


星南、ちょっと気分転換に外に出ようか。」



「えっ?出てもいいの?」



「ああ。酸素も取れたみたいだしな。


本当は、まだ安静が必要だけど。



こんな所にいたら息が詰まるだろう?



まあ、今の所は喘鳴も出てないし大丈夫だと思うから。


発作が起きないうちにでもさ。」




起きないうちにって…。



そう、軽々と口にする湊。


小児科に入院していた時は、ベッドに絶対安静で外にも廊下にも出られなかった。



私を担当してくれた先生は、私が無理ばかりするからと言って、ベッド上安静を私に出していた。



「少しの気分転換になればと思って。


白い天井をずっと眺めてたってつまんないだろ?」



「でも、外寒いんじゃないの?」



いくら4月とはいえ、日中は温かくても夜は冷え込むんじゃ…



「じゃあ、俺の白衣着ていけよ。」



「…ありがとう。」



私がそう言うと、嬉しそうに私の肩に湊は白衣をかけてくれた。



暗い廊下を点滴台を押しながら歩く。



「白木先生!」



「しっ。後で、管理当直には伝えておくから。」



「ですが、まだ明日海さんは…。」



若い看護師がまだ言葉を続けようとした時、年配のベテラン看護師がナースステーションから出て来てくれた。


「川嶋さん、いいから。


明日海さん、吸入器は持ってる?」



「はい。」



「白木先生もついている事だし、大丈夫でしょう。


何かあった時には、万全な対策をしておきますので。


気をつけて行ってきてください。


白木先生、明日海さんのこと頼みますね。」



この人は…。



どこかで会ったことがあるような気がする…。



「市原主任。ありがとう。


よし、星南。具合が悪くなったらすぐに言えよ。


一応、酸素ボンベも持って行っておくか。」



湊はそう言って、ナースステーションの中にある酸素ボンベと籠の中にはいくつかの酸素マスクの種類が豊富に入っていた。



そこまでするなら、わざわざ行かなくてもいいんじゃ…



それに、こんな勝手なことして迷惑なんじゃないの?




「ねえ、別に無理に屋上に行かなくてもいいんだけど。」



「いいから、星南に見せたい物があるんだよ。」



「だからと言って、わざわざ人の少ない夜じゃなくても…。


後で何かあって、怒られるのはあなたじゃ…」




「夜じゃないと見せられない物なんだよ。


それに、別にお前のためなら怒られようが構わない。


まあ、言い返すまでなんだけどな。


ちゃんと、主任には許可とったわけだから看護師からは文句は言われないだろう。



余計な心配はしないで、俺のあと着いてこい。



こんな暗闇の中、迷子になったら怖いだろう?」




湊はそう行って、私の手を離し私の肩を自分へ引き寄せていた。



「少し段差があるから、転けるなよ。」



下へ下る段差を降り、私達は屋上へ出た。



「ほら、空を見上げて見ろよ。」




湊の言葉通り、私は空を見上げる。




嘘、何これ…。



すごく綺麗。



今日は晴れていたからか、暗い空にはキラキラと輝く満天の星空が広がっていた。



今まで、空を見上げる余裕なんてなかったからか余計に綺麗に見えるのかな。