えっ?


何が起こったの?


状況を理解することが出来ず、目の前の出来事に唖然としていた。



「あんたね、いくら星南ちゃんが可愛いからって襲おうとしてるんじゃないよ!


それに、個室とはいえ誰かが入ってきたらどうしてたわけ!?


ここは病院なわけで、あんたが好き放題やって首が飛んでも私は何も庇わないからね!」



えっ?何?



この人は誰?



「痛いな!何すんだよ姉貴!!」



姉貴?


は?今姉貴って言った?




「あんたが可愛い女の子を襲ってるからでしょう?


可愛い子猫ちゃんは私が守ってあげないと。」




「だからって何も雑誌を丸めて叩かなくたっていいだろう?


全く、手加減っていうのを知らないのかよ。」



仁王立ちで湊を見下ろすその人を、つま先から頭のてっぺんまで見上げ、私は1人驚いていた。



まるでモデルのようなスラッとした体型で、顔も湊のように整っていた。



美人っていう言葉がとても似合う。



いや、そんなことよりも…。




「星南ちゃんごめんね、こいつがいきなり。


怖かったよね、よしよし。


私の胸の中で泣いていいからね。」




「えっ?


えっと…」



この場合、どう返したらいいの?




「おい、やめろよ。星南が戸惑ってるだろ?」




「あら、ごめんね。私は白木爽華(そよか)。


白木湊の姉です。


あなたは、明日海星南ちゃんよね。


よろしくね。私のことはそよちゃんでもそよ姉でも何でも呼んでくれていいからね!」




「は、はい。よろしくお願いします。」



「それから、こいつにいじめられたり嫌なことされたら遠慮せずこのお姉様に話しなさいね。」



「はい。」



「おい!姉貴…!」



「それじゃあ、私は診察に戻るわね。


そうそう、この前の貸し忘れてないわよね?」




「覚えてるよ。診察のことだろ?


焼肉でもなんでも奢ってやるよ。」




「忘れないでよね?


あっ、今度星南ちゃんも一緒にいきましょうね!」




「え、いや私は…」



「あら、お肉は嫌い?」



「そ、そういう訳ではないんですけど…」



「だったらいいじゃない?


ねっ、一緒に行きましょう。」




「おい、あまり無理は言うなって。」




もう、笑うしかない。



あまりにも勢いのある女性で、芯のある大人の女性っていう感じ。



「それじゃあ、また後でね星南ちゃん。


あんたもそろそろ、診察に戻りなさいよね。」



「分かってるよ。」




爽華さんは、私と湊に手を振って病室を後にした。



強い口調の女性だけど、優しい香水を使ってるんだな…。



病室に残された香水の香りが何だか落ち着く。




「おーい、星南。」



「えっ?」



「ぼーっとしてるけど、大丈夫か?」




「うん。平気。」




「そうか。俺もそろそろ外来に行かないといけないからもう行くけど、あんまり無理はするなよ。


何かあったら、遠慮なく俺のピッチにかけてくれていいから。


これ、病院用のピッチ。


このピッチは、紛失した時用のものだから誰からもかかって来ないとは思うけど、もしかかってきたら無視しておいてくれていいから。


それじゃあ。」



湊は、私の頭をクシャッとしてから外来へ戻った。