白いシャツに細身のズボンというラフな格好の男は、花の正面のソファに座っている。足の上に手を組んで微笑む。きっと、これが接客スタイルなのだろうな、と思いながらもその話の流れに花は感謝した。
 そう、花はこの店に用事があった。
 もちろん、テディベアの製作をお願いしたかったわけではない。きっとオーダーメイドで作り上げるテディベアなのだ。高価に違いない。そんな可愛くて綺麗なものなど欲しいと思えない。

 花は、丁度テーブルの上に置いてあった自分の紙袋を自分の膝の上に乗せてる。
 そして、背筋を伸ばして、顎を少しだけ引き、視線をまっすぐ男の瞳に向ける。そして、男に見せたこともない笑顔で微笑みかける。


 「私は乙瀬花と申します。そのテディベアを落としてしまったのはあなたのせいとはいえ、お風呂まで貸していただきまして、ありがとうございます。感謝しております」
 「………棘があるなー。でも、まぁ、本当の事だからね。こちらこそ、テディベアを助けてくれてありがとうございます」
 「あなたのお名前を伺ってもよろしいですか?」
 「あぁ………そうだったね。………俺は、#神谷凛__かみやりん__#だよ」
 「私がこのお店に用事があるのでは、というのは正解です。実は、神谷さんにお聞きしたい事があるのです」


 そう言って、花は紙袋からあるものを取り出した。そして、それを凛に見えるように正面を向けておいた。
 花が取り出したものは、焦げ茶色のテディベアだった。手には花浜匙のテディベアの証である、クマとスプーンと花のマークが刺繍されていた。店先に飾られているテディベアと顔や形はそっくりだった。が、1か所だけで違うところがあった。


 「これは、すごいね……」