ある日をさかいに、クラスの女の子全員から無視されるようになった。
 きっかけはコンクールのことが学校新聞に載ったことだった。その時の校長先生は、がんばっている子を応援したいっていう人だったから、たとえ学校外の活動でもいいことだからって、新聞に載せたみたいだけど、それがクラスのリーダー的存在だった女の子の怒りを買ってしまったみたい。
 生意気だ、調子に乗ってる、なんて言われて私とは話さないようにっていう手紙を女子全員に回したらしい。休み時間に話をしてくれる子もいなくなっちゃった。
 結局、クラスメイトからの無視は卒業するまで続いた。
 その時に私は決意したんだ。中学ではバレエのことは誰にも言わない、それからなるべく誰にも目をつけられないように地味に過ごすって。
 べつに目も悪くないのに眼鏡をかけたり、かわいい髪ゴムを使わないのもそのためなんだ。何が原因でいじめが始まるのかわからないからね。
 さいわい、私が卒業するタイミングで家が引っ越しをしたから、かつてのクラスメイト達とは離れることができた。今の学校には私の過去を知っている人は誰もいない。
 バレエのレッスンに通っているから部活にも放課後の女の子の遊びにも参加できないけど、べつにそれでよかったんだ。地味に過ごしているせいか、中学ではそれほど仲のいい友達はできなかったから。
 そう、今年に入ってさっちゃんと同じクラスになるまでは…。
 本当はさっちゃんになら言ってもいいかなって思う。たぶんさっちゃんは、ちゃんとした理由もないのに友達を無視したりするような子じゃないような気がするから。
 でもまだイマイチその勇気が出ない。
 そんなことを考えながら私は大通りの角を曲がって、住宅街へ続く道を進む。
 その時、黒い車がすごいスピードでそばを通り過ぎる。水たまりの水が跳ねて、レッスンバックにかかった。
「きゃっ」
 薄い紫色のレッスンバックは中学に入学するときにおばあちゃんに買ってもらったお気に入りだ。ドロがついてしまったバックを見て私はため息をついた。
 クラス中に無視されるきっかけになったバレエだけど、私はやめたりはしなかった。