「もう、悠馬ったら…」
 夕焼けに染まる家までの道を、私は悠馬と手をつないで歩いている。
 教室を出てから校門を出るまでの間も悠馬は手を離してくれなかったから教室での騒ぎを知らない子たちにも、私たちがつきあっていることが広まってしまった。
 ようやく誰もいない道へさしかかった今、私の文句が止まらない。
「たしかに隠さないっていう約束だったけど、あんなに大々的にいうとは思ってなかったよ。言うのはいいよ、いいけどせめて前もって言っておいてくれたらよかったのに…」
「心配症だなぁ、るりは。大丈夫だよ。拍手してた子たちもいたじゃん」
 悠馬があきれたような声をだした。
 それはそうだけど…。
 それにしても悠馬、なんかちょっと変わりすぎじゃない?
 私は納得いかずに首をかしげた。
「べつに嫌だって言ってるわけじゃないよ。そうじゃないけど…悠馬だってあんなに心配してたじゃん。噂になったら私が嫌な思いをするかもって、それなのに…」
 私の言葉に悠馬が「あぁ」と声をあげて微笑んだ。
「あれはるりが俺のことを好きだって知らなかったからだよ。そんな状態じゃ、かばうこともなぐさめることもできないだろ?でももう今は大丈夫。何があってもるりのことは俺が守るから。絶対絶対大丈夫だから」
 照れてしまうくらい力強い悠馬の言葉を聞きながら、私は発表会でオデットを踊ったときに感じたことを思い出していた。
 恋をすれば女の子は強くなるんだって思ったけど、どうやらそれは、男の子も同じみたい。
 悠馬がつないだ手にぎゅっと力を込めて、ぐいっと自分の方へ引っ張った。そして私たちの距離がぐっと近くなったその時…。
「あのー、そういうのよそでやってくれません?」という声がして私たちは振り向いた。
 話してるうちに、いつのまにか私の家の前まで来てたみたい。
 玄関から健二が顔を出して、げんなりしたような表情でこちらを見ている。
「健二!?」
 慌てて私は手を離そうとするけど、悠馬が離してくれなかった。
「やっと、俺の願いが叶ったのに。健二は祝福してくれないの?」
 悠馬の言葉に、健二がため息をついた。
「祝福はします。しますけど、親友と姉ちゃんのそんなところは見たくないのです」
 とほほと言って健二は引っ込む。そして玄関のドアはバタンとしまった。
 私たちは顔を見合わせてから、吹き出して、そのままお腹を抱えて笑った。
 今度こそ、幸せなエンディング。
 二人で幸せに…なんて思ってたけど、私たちの場合はちょっと違うみたい。
 私たちを応援して見守ってくれる人たちがいる、みんなで迎えるエンディング。
 私はその幸せをかみしめながら、夕陽に輝く悠馬のきれいな瞳を見つめた。