「やったね!」
 さっちゃんの言葉に私は少し赤くなって「うん…」と答えた。
 発表会の次の日の放課後、ガヤガヤと教室がうるさいのをいいことに私は日誌を書きながら、さっちゃんに優馬とのことを報告した。
 さっちゃんは悠馬に感心したみたいだった。
「さすが王子だね。るりのそんなことまで見ぬいてたとは」
「幼なじみだからね」
「それだけじゃないでしょ」
「え…?」
 さっちゃんは私をじろりとにらんでから、がたんと椅子をならして立ち上がる。そしてゆっくりと私の周りを回りはじめた。
「そりゃもともと、るりは単純でわかりやすいところがある。でもだからといってここまで王子がるりのことを見ぬけるのにはわけがある」
 私はなんだか取り調べを受けているような気分になりながら、首をかしげた。
「わけ?」
 さっちゃんが私の正面まできてぴたりと止まり、机をバシンと叩いた。そしてびくりと肩をゆらす私に向かって宣言をした。
「つまり、そこに愛があるからです!」
「ちょっちょっと、さっちゃん!大きな声出さないでよ!」
 さっちゃんは机に手を置いたままチラリと私の方を見た。
「なに、るり。まさかこれからもずっと秘密でつきあっていこうと思ってるの?」
「そ、そういうわけじゃないけど…」
 昨日の悠馬の告白のあと、私たちはこれからどうやってつきあっていくのかを真剣に話し合った。
 そして悠馬も私も隠すつもりはないということで意見が一致した。
 森さんたちの話をうのみにするわけじゃないけど、興味ないフリをして実は…っていうのが頭にくるという意見には納得する部分もあったからだ。
 堂々とつきあっていれば、少なくともそういう種類のやっかみはなくなるはずだから。
 そうだ、昨日そう決めたじゃない。私はそう自分に言い聞かせる。そして小さく深呼吸をしてさっちゃんを見た。
「そうだった。さっちゃん、あのね。私、隠すのはやめて堂々としてようって思うんだ。だってべつに私たち、悪いことをしてるわけじゃないもんね」
 さっちゃんがそれでいいよというように微笑んでうなずいた。
 その笑顔にはげまされるように私は話を続けた。
「とはいえ、多分、またいろいろ言われることもあると思う。でもね、私もう前みたいにはならないって思う。前より私強くなったから」
 さっちゃんがうんうんと大げさにうなずいて、「愛だね…」と言った。
 そのさっちゃんを、なんかおばちゃんみたいって思いながら、私は机に置かれたさっちゃんの手を取った。
「でも強くなれたのはさっちゃんのおかげでもあるんだよ!さっちゃんが私のこと、一年生の時から見てたって話をしてくれたでしょ?あれが私を変えたんだ」
 さっちゃんが意外そうに私を見ている。ちょっと照れくさいな。でもどうしても言いたかった。
「私一年の時はネズミみたいに隠れて暮らしたいって思ってた。でもそれでもさっちゃんは私を見つけてくれたんだ。自分らしくいればそれでいいんだっておしえてくれたの。私さっちゃんがいれば学校中の女子が敵にまわっても大丈夫、そんな気さえするよ」
「るり…」
 さっちゃんがちょっとうるうるした目を私に向ける。そして私の手を握り返した。
 そのとき、「学校中は言いすぎだろー」という声を聞いて私とさっちゃんは振り向いた。
 川口君だった。
「なに川口、るりと私のじゃまをしにきたの?」
 さっちゃんがにらむと、川口君は、はははと笑ってうなずいた。
「あたり、でも本当にじゃまをしたいのは、君との仲じゃなくて、悠馬と神谷さんの仲だけど」
「な…!か、川口君!!」
 私が声をあげると今度はニヤリとして私を見た。
 川口君とはなぜかあの告白以来よく話すようになった。
 クラス代表でもある川口君は悠馬の話によると、サッカー部の次期キャプテン候補らしい。
 でもそれが納得ってくらい話しやすくて、頼りになる。
 さっぱりとしていて、私が告白を断ったことはもう気にしていないみたいだった。