オデットの初恋~学校の王子様とニセモノの初恋はじめました~

 ざわざわと人でごった返すホワイエを私はキョロキョロと視線をさまよわせて歩いている。
 舞台は大盛況のうちに幕を閉じた。
 オデットのバリエーションの後私は、もう一つのプログラム、パリの炎のパドドゥを踊りきった。
 そうして控え室に戻ってみると、私宛の花束は三つ。
 今日の舞台を観に来てくれている、お母さんとおばあちゃん、そして信じられないことに健二からだった。
 その小さな花束のメッセージカードにはお世辞にもきれいとはいえない字で健二からのメッセージ。
"チケットは姉ちゃんのファンにあげました。だから俺は行きません"
 私はそのメッセージカードを手にホワイエを歩いている。
 チケットをもらったからといって必ず来てくれているかどうかはわからない。
 それでも…。
 人をすりぬけるようにして私は進む。頭の中は悠馬のことでいっぱいだった。
 でもどこにも見つからない。
 こんな人混みじゃ、見つけられないよ。舞台が終わって着替えている間に、もう帰ってしまったのかも。
 いやそもそも、来てくれていないのかも…。
 そんなことを考えて、私があきらめかけた時…。
「るり」
 落ち着いた低い声で名前を呼ばれて、私は振り返る。
 そこに、悠馬がいた。
 いつもみたいなTシャツや短パンじゃなくて、ちゃんとした白いシャツに長いズボンを履いて。ちょっと茶色い髪は、心なしかきちんと撫でつけられている。手にはピンク色の小さな花束。
 まるで本物の王子様みたいだった。
 私は思わず吹き出して、そのままクスクスと笑い出してしまう。
 これじゃ、見つからないはずだよ!
 悠馬が赤くなって、口をとがらせた。
「なんだよ…」
 私は首を横にふって笑いをかみ殺した。
「ごめんごめん、悠馬があんまりちゃんとした格好だったから、びっくりしたんだよ」
 悠馬が照れたように頭をかいた。
「俺、るりの発表会は保育園の時以来だから、健二に聞いてきたんだけど…間違ってた?」
「間違ってないよ!カッコいい!本物の王子様みたいだよ!」
 私の言葉に、その場にいた何人かの人が振り返ってクスクスと笑った。
「ばっ…ばか!何言ってんだよ!」