少しゆったりとした音楽に合わせて、私は鳥のように手を羽ばたかせる。
 一歩一歩、ステップを踏む。
 恋に落ちたオデットは、ジークフリード王子が自分にかかった呪いを解いてくれると信じていたのかな。
 王子様の愛の力できっと呪いが解けて、二人は結ばれるって?
 ううん、きっとそうじゃない。
 オデットの胸にあったのは、きっともっと強い気持ち。
 ジークフリード王子と結ばれるために、自分にかかって呪いを自分で解いてみせるという確固たる決意。
 恋をすれば、女の子だって強くなれるんだ。今の私みたいに。
 ねえ悠馬、知ってる?
 『白鳥の湖』には、二つのエンディングがあるんだよ。
 悪魔の呪いに勝てない悲しい終わりと、愛の力で二人が結ばれる幸せな終わり方。
 私たちはどっちかな。
 もし悠馬がゆるしてくれるなら、私は幸せなエンディングを迎えたい。
 たとえばそこに何かつらいことがあったとしても、もう絶対に私は大丈夫だから。

「よかった、よかったわよ!るり」
 先生が涙ぐんで私を抱きしめてくれた。
 こんなことはコンクールで入賞したとき以来だった。
 やりきった。
 今私の胸の中にあるのはその思いだけだった。私なりのオデットをしっかりと演じるきることができた。
 緊張が解けて少し震える私の手を先生の手が包んだ。
「この調子で、コンクールに挑みましょう!」