白鳥の羽を表す真っ白なクラッシックチュチュの衣装を身につけて、私は舞台袖で大きく深呼吸をした。
 オデット姫のこの真っ白なドレスは、バレエを始めた頃からずっと私の憧れだった。
 バレエ教室の歳上のお姉さんたちが、この衣装を身につけて、まるで本物の鳥のように軽やかに舞うのを、いつも胸を踊らせて見ていた。
 ようやくこれを着ることができたんだという喜びと、うまく踊れるのだろうかという不安。二つの思いを胸に私は今ここに立っている。
 先生が、私の肩に手を置いた。
 発表会もコンクールも直前は逃げたしたくなるくらいに緊張する。でもこの肩の重みが、いつも心を落ち着かせてくれる。
「大丈夫、るりはよくやったわ。大丈夫」
 私はうなずいて、スポットライトが当たる舞台の中心をじっと見つめる。
 あの場所が、私は大好きなんだ。
 どんなにつらい練習でも、苦しい道のりでも、あの場所で踊れると思うだけで、乗り越えられる。
 あそこが、私の輝ける場所。
 前の演目が終わり、演者の女の子たちがはけてくる。
 私はもう一度深呼吸をした。そして目を閉じる。
 頭に浮かぶのは、私だけの王子様。
 オデットのように呪いにかかって動けなくなっていた私に、初めての恋をおしえてくれた。
 もう一度、踊る喜びを思い出させてくれた。
 私はゆっくりと目を開ける。
 さぁ、いこう。
 彼におしえてもらった想いを抱いて…。