健二が漫画を置いて、ため息をついた。
「姉ちゃん、まだそんなこと言ってんの?俺…、悠馬がかわいそうになってきた」
 その健二の表情を見て、私はやっと確信がもてた。
 そうだったんだ…。
 私ははずむ息を整えながら、健二のベッドにすとんと座り込んだ。
 悠馬が枕にひじをついて"やっと気がついたのか"とでもいうように私を見ている。
 私はそれをじろりと睨んだ。
「何よ」
「いやべつに。悠馬も大変だなーと思って、こんなバレエ馬鹿が相手だと」
「なっ、何よそれ!」
 私はこぶしをふりあげてぽかぽかと健二を叩く。
「いて、いてて。暴力的な彼女なんて嫌がられるぞ」
 健二に言われて私は手を止める。そして口をとがらせた。
「もう彼女じゃないもん」
 健二はちょっと眉を上げた。
 私はそんな健二に向かってたずねた。
「ねぇ健二、悠馬はなんで私にちゃんと言ってくれなかったんだろう。それから、別れようなんて言ったんだろう」
 言ってくれればこんなにややこしいことになっていなかったような気がする。
 健二は少し考えてから口を開いた。
「そんなの俺にはわかんねぇよ。このことに関しては俺、あいつから相談されてるわけじゃねぇし。なんとなく予想できなくもないけど、それはあくまでも俺の考えだし。ただ…」
「ただ…?」
 私は健二をじっと見た。
 健二がはぁともう一度ため息をついた。
「悠馬が言わなかったって姉ちゃんは言うけど、それはさ、お互いさまなんじゃないの?」
「え…?」
 私は健二の言葉の意味がすぐにはわからずにキョトンとしてしまう。
 健二が身体を起こして、「だ、か、ら」と言った。
「なんで言ってくれなかったんだろうとか、なんであんなこと言ったんだろうとか姉ちゃんは言うけど、そもそも姉ちゃんは悠馬にちゃんと言ったのかよ。自分の気持ち」
 健二の言葉に私は「あ…」と声をもらして黙り込んだ。
「姉ちゃんだって俺に聞くばっかりで、知りたいこと全然悠馬に聞けてないじゃんか。それなのに、あいつの気持ちがわからないなんて、そんなのお互いさまだろ。言わなきゃわかんないよそんなの」
 いつもゲームばっかりでしょうもないことばっかり言う健二が、今日だけは別人みたいに思えた。
 そうだよね。