森さんたちから悠馬の噂話を聞いてから、私は浮かない日々を過ごした。
 本当に恋ってやっかいだ。
 どれが正解なのか、悩んでも悩んでもわからないや。
 私は悠馬と見たあの恋愛映画を思い出していた。
 あの主人公も悩んで悩んで悩んでいた。しかもそれで間違った選択をしたりして…。
 もし今の私が映画や小説の中にいるとしたら、外の人には私の知りたい答えがわかっているのかな?そうだったら、お願いだから入ってきて悠馬の気持ちをおしえてほしい…。
 そんなふうに悩みながらさらに数日が過ぎた。
 そしてある日、意外な出来事が起こったんだ。
「突然、呼び出したりしてごめんね」
 放課後、誰もいない理科室に、私はクラスメイトの川口君といた。
 話があるから来てほしいって言われて。
川口君は悠馬と同じサッカー部なんだ。
「俺とつきあってくれないかな」
 突然の川口君の言葉に、私はびっくりしてしまう。
 だって、川口君とは私ほとんど話もしたことがない。いったいどうして、というのが正直なところだった。
 でもそういえば、悠馬がそんなことを言っていた。サッカー部の先輩が告白してみようって言ってたとかなんとか…。
「神谷さんって、おとなしそうに見えるけど意外に強いところがあるよね。森さん達にも言い返したりして。俺、神谷さんのそういうところ、すごくいいと思う。そう思って見てたらいつのまにか好きになってたんだ。だから…よかったら」
 川口君の言葉を私は素直にうれしいと思った。
 私は慎重に言葉を選びながら口を開いた。
「川口君、ありがとう。そんな風に言ってくれて、うれしいよ。でも私、他に好きな人がいるの。だから川口君とはつきあえない。本当にごめんなさい」
 ちょっと緊張しながらも私はちゃんと最後まで言った。
 川口君は一瞬、残念そうに眉を下げてそれでも小さくうなずいた。
「うん、わかった」
 私はホッと息をはく。
 自分のことを好きな人に、他に好きな人がいるってことを言うなんて残酷なことかもしれない。
 でも同じ振られるなら本当のことを知りたいって私は思う。
 そしたらその時は悲しくても、いつかはきっと前に進めるから。
 もう一度、ごめんねと頭を下げる私を見て、川口君がへへへと笑った。
「気にしないで。もともと無理だろうなって思ってたんだ。でもこれから部活の方で大きい大会が待ってるからさ。それに集中できるようにって思って…こっちこそ、いきなりごめん。びっくりした?」
 私はこくんとうなずいた。
「はははやっぱり。もともと神谷さんはあまり男子とは話さないもんね。…悠馬以外は」
 川口君の言葉に私の胸がどきんと跳ねる。それを気づかれないように私は彼から視線をそらした。
「ゆ、悠馬は、幼なじみだから」
「そうなんだってね。でもあいつはそう思っていないだろ?」
「え、…どういうこと?」
 川口君がちょっと意外そうに私を見てから話し始めた。
「神谷さんに告白しようかなって俺、あいつの前で言ったことがあるんだ。べつに何気なく言っただけなんだけど。そしたら悠馬のやつ慌ててさ…」
 その時のことを思い出したのか、川口君はくっくっと肩をゆらして笑った。
「そんなに変だったの?」
 私がたずねると川口君は笑いを噛み殺しながら口を開いた。
「いや、変っていうか。あいつ普段は冷静でどんなに人気のある女子の話をしても興味なさそうにしてるのに、あの時だけは話に入ってきて、俺に本気なのかって聞くんだから、…まったくバレバレだよな」