森さんが肩をすくめた。
「そんなの、つきあってるうちに好きにさせちゃえばいいのよ」
 森さんの言葉にさっちゃんが私にだけ聞こえる声で囁いた。
「あいかわらず、メンタル強すぎだよね」
 私はくすくすと笑った。
 森さんのことはこれからもずっと絶対に好きにはなれないと思う。
 でもこのたくましいところだけは少しうらやましいなと思った。
 あの胸が引き裂かれるような失恋の痛みを同じように感じたはずなのに、こんな風にあきらめないでいられる彼女を純粋にすごいと思った。
「夏美、やっぱり夏休み前にもう一度告白しちゃう?」
 その言葉にもう一人の子がストップをかけた。
「それが、間髪入れずにもう他の人とつきあい始めたらしいよ!ありえなくない?」
「えー!!そうなの!?」
 森さんたちが声をあげて、また私をチラリと見る。その視線は幼なじみの私なら何か知ってるんじゃないかと言いたげだった。
 もちろん私は何も知らない。
 でもある意味で、そうなる運命だったんじゃないかと思う。
 つまり悠馬は、私と別れてすぐに本当に好きな人に告白をしたんだ。たぶんそのために私と別れたんだろう。
 相手の子がどんな子かはわからないけど、悠馬に告白されて断る子なんてそうそうはいないよね。
 そんなことを考えて課題の手を止めたままの私をさっちゃんがちょっと心配そうに言った。
「るり…」
 森さんたちは、そんな私には構わずに話を続けている。
「同じクラスの子の話では、今度は本当に好きな人とつきあってるんだから、もう絶対に変なことはするなってきつく言ってたらしいよ。ちょっとびっくりだよね。今まで悠馬君って自分からはそういうこと、あんまり言わなかったじゃん?しつこく聞かれたりしない限り。それなのに、わざわざそんなことまで言うなんて。悠馬君を好きな子の中にはそれを聞いて泣いちゃった子もいるらしいよ」