悠馬は彼女をにらんでさらにたたみかけた。
「俺が誰とつきあおうが自由だろ。お前には関係ない」
　そして森さんに向き直った。
「もう二度とこういうことはやめて下さい。るりは本当に無関係です。たしかにるりは俺にとって他の女子とは違います。でもそれはるりが幼なじみだからで、彼女だからじゃありません。この前、先輩に言ったみたいに俺には、他に好きな人がいますから」
　一気に言って悠馬は少し長いため息をついた。そして森さんをにらんだ。
「俺の好きな人が誰かっていうのを詮索するのもやめて下さい。本当に迷惑です。…次またるりに何かしたら、今度は俺、容赦しませんから」
　悠馬は静かに言ったけど、怒っていることは十分に森さんに伝わったみたいだった。
　森さんは唇をかんで、何も言わずにくるりと向きを変えると、校舎の方へバシャバシャと走り去っていく。
「あ、夏美、待って！」
　他の女の子達もあとを追っていなくなった。
　私はさっちゃんのハンカチを握りしめて、彼女達の方をにらむ悠馬の横顔を見つめていた。
　やっぱりそうだったんだ。
　覚悟していたはずなのに、いざ悠馬の口から聞くとつらかった。
　悠馬には他に好きな人がいる。
　私は時が止まってしまったみたいに動けなかった。
　そんな私に悠馬が傘を差し出す。そして肩を落とした。
「るり、ごめん」
「悠馬…」
「全部俺のせいだ。…本当に…ごめん」
　そのあまりにも暗い悠馬の表情に私はびっくりしてしまう。
　さっき悠馬に好きな人がいるって知って失恋したばかりの私よりつらそうだ。
　私は慌てて首を横にふった。
「だから悠馬のせいじゃないって、森さんはだいたいあんな感じなんだから。ね？さっちゃん。いつものことだよね、平気平気」
　わざとらしいくらいに明るく言うけれどやっぱり悠馬の表情は暗いままだった。
　そしてもう一度「ごめん」と謝ってから、校舎の方へ歩き出した。
「部活で使うタオルがあるから、取ってくるよ」
　その背中は心配になるくらい、つらそうだった。
　さっちゃんが、「どうしたのかな」と呟いた。