悠馬が帰った後、私は家にいた健二に事情を話した。
 とにかく嘘の言い訳でもなんでも、健二に口裏を合わせてもらわないと話にならない。
 健二は目を丸くして、「姉ちゃん達、そんなことになってたの」と言った。
 そして口裏を合わせてほしいと頼む私に神妙な表情でうなずいた。
「それであいつらが納得するとは思えないけど、聞かれたらそう答えるよ」
 てっきりからかわれるものと思っていた私は少しだけ拍子抜けした。
 すきあらば私の弱みを握ろうとする奴だけど、さすがに親友もからんでるとなると、それなりにちゃんとするのかな。
 悠馬がふと思い出したように言った。
「でも姉ちゃん、悠馬とつきあうってことはあいつの好きな人聞いたってこと?」
 健二の言葉に私は首を横にふった。
「ううん、まだ聞いてない」
「え?まだ聞いてない!?」
 健二が声をあげる。
 私はそれにうなずいた。
「それを今日悠馬に聞こうと思ってたの。そしたらちょうどその時に、女の子達に会っちゃって…」
「なんかややこしいことになってんだな。でもとにかく、悠馬のファンにバレたんならただじゃすまないぞ。姉ちゃん」
 私はこくんとうなずいた。
 たしかに、ただではすまないと思う。でもさっきほどは恐る気持ちも薄らいできたように思う。今、私の胸にあるのは少し違う種類の不安だった。
 さっき帰り際に見た悠馬のあの表情。
 まるでバレたことが、全部自分のせいみたいな言葉…。
 バレたくないって言ったのは私だけど、でも見られたのは本当に偶然で、仕方がなかったのに。
 悠馬はどうしてあんなに、追いつめられたみたいに落ち込んでいたんだろう。
 その夜私は胸がざわざわとしてなかなか寝付けなかった。
 昼間はあんなに晴れていたのに、やっぱり梅雨明けはまだ先で、夜遅くにまた雨が降りだした。
 私はその雨音を聞きながら、不安な気持ちのまま眠りについた。