オデットの初恋～学校の王子様とニセモノの初恋はじめました～

　私はこっそりと悠馬のＴシャツの裾を引いた。
　こういう時の女の子達には何を言っても無駄のような気がする。悠馬はそれに気づいて小さくうなずいた。
「まぁ、とにかく…べつになんでもないんだから、変なこと言いふらすなよ」
　悠馬がそう釘をさして、私達は女の子達から逃げるみたいにしてその場を後にした。
　さっきまでの期待に満ちた気持ちは風船がしぼんだみたいになくなってしまった。ただ胸がどくんどくんと嫌な音で鳴っている。
　あの子達が悠馬の言うことを信じて、誰にも言わないなんてことはありえない。
　きっと一週間もたたないうちに噂は広まってしまうだろう。突然の展開に私の頭の中はぐしゃぐしゃだった。
　悠馬に手を引かれるままに、人ごみを進む。その間、二人とも一言も話をしなかった。
　そして気がつけば、私の家の前だった。
　女の子達が来る前は話の途中だったけど、なんとなくもうそれどころじゃないような空気だった。
「…あいつらが黙ってるなんてことありえないと思う…ごめん」
　悠馬がかすれた声で言った。
　私はびっくりして悠馬を見た。
「どうして悠馬が謝るの！？悠馬のせいじゃないのに」
「でも…るりはずっと隠したがってただろ」
「…それは、そうだけど…。きっと大丈夫だよ」
　本当は、全然大丈夫なんかじゃないと思うけど、私はわざと明るく言った。
「悠馬がうまく言い訳してくれたし…」
　これも、全然信じてもらえてないと思うけど、こう言うより仕方がない。
　でも言えば言うほど、悠馬が落ち込んでいくように見えた。女の子達に見られたのは誰のせいでもないのに、まるで全部自分が悪いみたいに肩を落としてる。
　こんな悠馬初めてだった。
　でもこれ以上悠馬を元気づけるのは今の私にはできなかった。
　不安なのは私も同じだったから。
　あの子達は絶対に森さんに言うと思う。そして幼なじみ三人で来てたなんて話、森さんには通じない。
　いったい私たち明日からどうなっちゃうんだろう…。