それから私達は、フードコートでお昼ごはんを食べた。
 チーズバーガーをピクルス抜きで注文する私を馬鹿にする悠馬に文句を言ったり、ハンバーガーのセットをぺろりとたいらげたくせにまだお腹が空いてるなんて言う悠馬に笑い転げたりしながら、楽しく過ごした。
 その後二人でショッピングをして私はシュシュを一つ悠馬に選んでもらって買った。
 あっという間に夕方になって、今は最上階のテラスのベンチに二人で並んで座っている。
 今日一日、いっぱいいっぱい話したのに、まだ話したりないように感じるから不思議だった。
 悠馬といると、なにもかもが特別なことに思えてくる。私の人生の中でこんな人は初めてだ。きっとずっとこれからも、悠馬は私の中で特別な存在でい続けるんだ。夕日を見つめながら、私はそう確信していた。
 あの話をするなら今だって思う。
 でもどう言えばいいのかがわからずに、私は悠馬の隣でもじもじとした。
 いきなり別れようって言うのはやめにした。今日一日一緒に過ごしてみて、楽しそうな悠馬を見て、もしかしたらっていう思いが私の中に生まれたから。
 だから、まずは悠馬の好きな人は私なのかどうかを確認して、それから…。
 でもそれを口にするのは、相当に勇気がいることだった。発表会だって、コンクールだってこんなに緊張した経験はない。
 私はちらりと悠馬を見る。
 夕日に照らされた悠馬は、本当にカッコよかった。いつも隣にいた小さな男のが、いつのまにこんなにカッコよくなったんだろう。
 会話がとぎれて二人ともが少し黙り込む。悠馬は唇をかんで何かを考えているみたいだった。
 今だ言え!ってわたしの中の私が言う。…でもやっぱり言えなかった。
 代わりに悠馬の方が何か言いたげな表情で私を見た。
「るり、今日一日、楽しかった?」
 少し真剣な表情で悠馬は私に問いかける。私はどきんと胸が鳴るのを気づかれないように平静をよそおって、こくんとうなずいた。
「楽しかったよ」
「それってさ、どういう意味で?」
「どういうって…?」
「つまり…」
 悠馬はめずらしく何か言いにくそうにして目を伏せた。
 私はますますドキドキとする。
 なぜだかはわからないけど、悠馬の言おうとしていることが、今私が知りたいことと同じのような気がしたから。
 悠馬はしばらくうつむいていたけど一度ぎゅっと目を閉じてから何かを決心したようにゆっくりと開いた。
 私は思わず息をのむ。
 こんなに真剣な表情の悠馬は初めてだった。
 何かを決意したような口元、真っ直ぐに私を見つめる澄んだ瞳。
 ジークフリード王子もオデット姫に愛を誓うときはこんな表情だったんじゃないかって、そんな都合のいい考えがわたしの頭に浮かんだ。
「るり、あのさ。俺、るりに言わなくちゃいけないことが…」
 でもその時。
「あれ、悠馬君じゃん!」
 弾むような声が聞こえて私と悠馬は、振り返る。おしゃれな女の子のグループが、私たちを指差しながらこちらの方向へ歩いてくるのが見えた。
 悠馬が、「まずい」と呟いた。
「クラスの女子だ」